第十章の1
やはり非常時に対応する人がいたようだ。大人の声が聞こえる。
しばらくはこれで六野ではないだろうか。
「陽野 二式。」
呼ばれた。これは剛田ではない。授業担当の先生からの声か。
嫌な予感がするが、呼ばれたからには応えなければならない。渋々ながら目線を剛田がいるで、あろう方向から黒板へ移していく。
「行け。」
案の定、俺を促す言葉だ。予想できた言葉であったため、驚きはない。だが、衝撃を受けることが起こった。
彼は俺を教室の外へ促す言葉と同時に、右人差し指を教室と廊下を仕切る扉を指さした。
そして、指さされた引き戸は彼の言葉に従うように自ら勢いよく開き、枠を強く叩き木霊したのだ。
この不可思議な現象、自然に起こるものではない。確実に能力によるものだ。彼の名前は記憶していないが、彼も能力者のようだ。
「わかりました。」
学校職員のリスト関係者。これは政府に関係する者といえる。つまり、逮捕協力を暗に示しているのだろう。
もし、そうでなかったとしても、剛田は俺に用があるのだ。俺を差し出すことで他の生徒への被害は避けられる。
現状から、被害者を少なくすることを目的に考えるなら、優れた判断であるだろう。
しかし、最低限の被害者である俺はどうだろうか。相手は鉄筋コンクリート構造である壁を壊すことができるリストだ。
俺も同じリストではあるが、能力は観察力。勝敗は火を見るよりも明らかだ。
前回は助かったが、今回は死ぬかもしれない。
「先生。」
冷菜か。何か意見するつもりか。
「その判断は、いかがなものかと思います。」
一つの意見としては正しい。しかしそれは通らない。
なぜなら、これは生徒を守る判断ではないからだ。一般市民をリストから守るための判断。
そして俺は一般市民ではなくリスト。俺は守る対象ではない。
「却下する。この判断に意見することは認めない。陽野、早く行け。」
限られた情報しか持たない人へ、その言い方は悪い。形式上は先生と生徒。俺は守られる立場だと、一般の人からは見えるのだ。反感を持たれるのは目に見えてわかる。
「わかりました。」
しかし、今は緊急事態だ。行くしかない。




