第九章の1
……さい……さい……ください……起きてください。
「あと5分。」
起きてください。
「もう少し寝かせてください井端さん。」
今、俺、井端さんと言ったか。
「また俺は井端さんの夢を。」
颯太の一件以来、井端さんと会っていない。今日で1か月と3週、2か月経とうかとしている。
どれほど井端さんに頼ってきたのかを知らされる。目覚ましも頭に響く無機質な音から波の音へ変えた。だが結局は機械から発せられる音。心の穴は埋まらない。
一人暮らしに戻っただけなのに、最初は一人暮らしに丁度良いと感じたこの部屋も今では広すぎる。目に入るものすべてが俺へ淋しいと訴えてくる。
「俺の選択は正しかったのか。もっと穏便にできなかったのか。」
颯太を殺すことなく無力化した。作戦は成功した、快挙だ。しかし、電流による無力化を提案した事実は俺と井端さんの間に大きな溝をつくった。大切な家族に対して電気を流すよう提案、井端さんの反応は当然だ。もっと良い案が思いつけば淋しい思いをすることはなかったかもしれない。
剛田の時は窓ガラスへ手を突っ込ませた。あれはあれで剛田の腕が使えなくなる危険性があった。しかし、今回の電流は下手をすれば命を奪うものだ。
俺の罪は重い。
「ここにいると暗くなる。」
ここには誰もいない。話し相手などいない。ここでは自身を責めるだけ。
「朝食は、要らないな。」
一人で食べる食事は、味はあってもおいしいと感じない。
一緒に生活をしなければ生活の楽しさを知らずにすんだのに、人の温かさを感じない生活ができたのに、淋しい思いをしなくてすんだのに、苦しいなんて思わなかったのに。
「早く学校へ行こう。」
この勢いなら随分と早い登校となるだろう。だが、今の俺には1分、1秒が長く感じる。早々に抜け出したい。誰かと会話がしたい。
「いってきます。」
誰もいない部屋へ告げ、鍵をかける。1つ1つの行動が独りである現実を突き付けてくる。
考えるだけ無駄だ。早く行こう。




