第八章の5
「可能な限りの時間稼ぎか。」
いつものことだが麗化は無茶なことをさせる。だが、今できる中で最大のことだろう。
時間稼ぎをするにも具体的に何をすればよいのだろうか。
時間稼ぎのためだけに颯太へ近づき龍の攻撃をよけ続けても意味がない。むしろこちらの狙いを悟られる可能性がある。
攻略方法を探索しているように見せるか。いや、無意味だ。麗化の方へ走った事実がある。これは解決方法を見つけたことを宣言したようなものだ。
「早くやれ。」
またか。警察め。こっちは必死に考えているところだぞ。
早くやれと言われてもな。あの荒い口の言い方だと、やれの部分は殺せの意味が入っているよな。
殺す、か。現状を突破するには現実的だよな。これを俺たちの目的に見せかけて行動すれば相手は勘違いするのではないか。
しかし、俺には凶器になるものはない。見せかけるにも武器がなければ殺しにかかっているようには不可能だよな。
今持っているのは、ズボンのポケットにあるスマホぐらいだ。
「ブラフか。」
掛けに出るしかないよな。思いついた言葉を自身でつぶやいておいてなんだが、笑えてくる。
相手に気付かれたらお仕舞だ。思い込むのだ。いいか、陽野 二式、右ポケットにあるのは凶器だ。目の前の少年、颯太の命を取るためのものだ。
「行くぞ。」
ここからは気持ちの問題だ。颯太ではない、自分との闘い。気を抜くと相手は武器を持っていないことに気付く。
「行くぞ。」
もう一度自身へ言い聞かせ、重い足を前後にする。
「3秒後だ。」
3秒後に俺は颯太を殺しに行く。
「3」
俺が持っているのは凶器。凶器。
「2」
凶器、凶器、凶器。颯太の首を切り裂く刃物。
「1」
走れ。




