第一章の3
眩しい。赤い光が一枚の透明な板を通り眼を突き刺す。少しづつ重い瞼を開けると目先には紅く染まった見慣れた天井があり、夕方である事を知らされる。
変わった夢を見ていた様だ。いや俺は夢を見たんだ。違いない。
「よかった。よかったです。目覚めないかと心配しました。」
どうやら現実逃避もさせてくれない様で、想像するも虚しく、上半身を起こすやいなや事実を伝える大きな声と共に上半身が優しい温もりに包まれた。
この声は、最初に不法侵入してきた女性か。今はそれよりも「離れてください。」俺はめい一杯の力で拘束から逃れた。
「申し訳ありません。つい。」
言いすぎたか。だが、それくらいしても仕方ないことだろう。
「貴女は、一体誰ですか。」俺は縮こまるスーツへ突き放すように言った。
女性は、俺の質問を聞くと、直ぐさま姿勢を正し、口を開いた。
「申し遅れました。私は、井端 水無と言います。」
井端さんは、自分の名前を言い深々と頭を下げた。
「自己紹介は、終わったかな。」
猫なで声が玄関から聞こえる。
「上の人に報告するため、瞳を見せてくれないかな。」
ポニーテールの女性が、いつかと同じくビジネスシューズを履いたまま上がり込みベットで座っている俺の顔を近づけてくる。
「動かないでくれるかな。見辛いかな。」後退りする俺に言ってきた。
「いきなり近寄られたら、動いて当然だろ。」
裏返った声が出た。
「焦れったいな。」
抵抗する俺に苛立ったのか両手の平で俺の頬を挟む型ちで抑え、頭を固定した。
「どうなってるのかな。」俺の顔を見るなりポニーテールは目を大きく見開いた。
「どうかなさいましたか?」
井端さんは、靴を履いたまま上がってきた常識知らずの人に質問をした。
「変色が起きてないかな。」
井端さんは、非常識さんの答えを聴くと目を白黒させた。
「そろそろ手を離してくれませんか?」
非常識さんの力は思った以上にあり、手を解くことができなかった俺は、2人のやり取りを遮るように言った。
俺の横槍を聞いた非常識さんは顔から手を離し「これでいいかな。」と俺に言った後「取り敢えず、上に連絡を入れておこうかな。」と一言だけ残し玄関へ続く廊下へ姿を消した。
「あの人はいったいなんだ。」
「麗化先輩ですか?」レイカというのか。
「彼女の名前は可変 麗化です。
可能の可に変化の変で可変、麗しく化けるで麗化。面倒見が良く、後輩想いで、名前の通り麗しい方ですよ。」どこが麗しいのだか。
「その目を見る限り、疑っている様ですね。」
「当然だ。俺は麗化に殺されかけたんだぞ。」銃でな。
「彼女は貴方を殺めたりなどしませんよ。」
顔を見る限り俺が云おうとしている事は分かっている様だ。
「じゃあ、銃で俺を撃とうとした件、説明してもらおうか。」
挑発的に投げかけた言葉に対し、彼女は人差し指を顎に当て、少し考えた素振りをしてから答えた。
「貴方の言う銃は、火薬を叩いて発砲するものではなく、空気を使ったもの。玩具のエアーガンみたいなものです。」
という事は「殺傷能力は?」「ないです。」
俺の言葉に重ねる様に井端さんは答えた。
「銃で飛ばすものは注射針を仕込んだ弾、注射を圧縮した空気で飛ばすと考えてもらって結構ですよ。」
「つまりあの銃は俺を殺すものではなく、薬品を打つものだったと……」
意見が正しいのか確認のため彼女の顔を見ると、俺の見解を肯定するかの様に、満面の笑みを返してきた。
「えっと、貴方に打とうとした薬品はO-0314(オー・マルサンイチヨン)、一昨日、貴方に見せた薬品ですね。」次に聞こうとした事を察したのか、井端さんは、慌て気味に言った。
「それにしても、弐式さんは順応性が高いですね。一昨日顔を合わせたばかりの人の言葉をそのまま受け止め信用する人は、他にいませんよ。」
「情報量が圧倒的に足りないこの状況、信じるしか手がない。それが一昨日出会った人で……おとと……い?」ちょっと待て、一昨日と言ったよな。えっとたしか、初めてこいつを見たのが日曜だからそこから……「今日は、火曜日ですよ。」「え?」「ちなみに、今は朝の5時30分頃ですね。」「は?」「大丈夫ですよ。学校には1週間ほど休むと連絡を入れてますので。」
井端さんは悪戯めいた笑みを浮かべそして爆弾を投下した。
「もちろん休む理由も伝えました。私と駆け落ちをするとね。」
「ふざけるなーーーー‼︎」




