第八章の3
では、何処にこの能力を使っている人がいるのか。
向かいにいる麗化に聞けばいいか。ここから麗化まで約10メートル、声は大きめにした方が良いか。
「麗化さん。この龍みたいなもの何ですか?颯太君が怯えているのですが。」
「これが颯太の能力かな。」
マジかよ。これが弟さんの能力かよ。
自分の能力で出したものに怯えている。まるで分らん。
「どういう意味ですか。」
「そのままの意味。颯太は自分の能力を扱えていないかな。」
なるほど。だから暴走か。
麗化と話している間に水龍が微動だにしていないことも納得だ。水龍の扱い方を知らないから動かせないのだろう。
それなら、能力を持つ本人を何とかすればよいのではないか。
「やってみる価値はあるか。」
俺は小さくぼやき、自分に言い聞かせ心に決める。
似合わない笑顔だと思うが、口角を上げ、相手の警戒を緩めるためだ。再び膝を抱える少年の方へ向く。目線を合わせるために、しゃがみ、話しかける。なるべく優しい声で、だ。
「颯太君、この龍のことだけど。」
少年は怯えながらも少しずつ顔を上げ、地を見ていた目線があわない。俺を通り過ぎて空の方へ。そして、顔色が悪くなる。頭上に何かあるのだろうか。
つられて上を向こうとしたとき、細雨とは違う、水が滴り落ちている、と表現した方が正しいか、とにかく滴が頭に落ちてくる。嫌な予感を持ちながら、滴の出どころを探すように目を空へ向ける。案の定、そこには水で形作られた龍の顔。
口であろうところが、俺に向かう。俺がしゃがみこんでいる地面に対し垂直の口がゆっくりと開く。これは、確実に喰らいにきている。何処へ逃げるのがベストだ。高欄方面か。駄目だ、上顎と下顎が橋に並行するようにある。頬というものが見当たらないため口を開くと縦の方が長い。逃げるなら口に対して横。つまり颯太の方面だ。
膝を曲げている利点を活かし、颯太に当たらないように気を使いながら飛び込み前転。
刹那、俺がさっきまでいた場所に開口した龍の顔が激突、成形していた水がしぶきとなり周辺を濡らす。龍の顔は跡形もない。しかし、ひるんだ様子もなく、ゆっくりと身体を起こし、またも顔が造形される。
足か手かわからないが、2本の突起と顔の距離が短くなっている。顔から一番近いところから見ると手であろう。微々たる差ではあるが。
おそらくだが、生え出させて作ることはできなければ、継ぎ足すように水を集めて作ることもできない、今ある身体一部を変形させるしかできないのではないか。
もし、この仮説が正しいのならば、何度も地面へ突撃させればいずれ終わる。だが、そのようなことはないだろう。ここは橋だ。水はいくらでもある。流れる水を使かって身体を作ればいい。
例えるなら達磨のない達磨落とし。一番下の円柱を抜いて、その円柱をまた積み上げるようなもの。永遠に終わらないのだ。
「コントロール系は、操れるモノが豊富にある場所では最強だけど、それ以外では戦力外。か。」
環さんの言葉を思い出す。本当にチートだな、これ。こんなものに勝てるのか。




