第八章の2
商店街は葉山荘側から上通り、中通り、下通りの三つからなる。上通りと中通りのゲート間には川があり、長さ20メートル、幅10メートルぐらいの桁橋が渡されている。麗化は橋に差し掛かるところにいた。
橋中央で一人の少年が膝を抱えこんでいて、その少年が逃げられないよう麗化と警察が橋を囲んでいる形だ。
俺たちに気付いたのか麗化が振り向く。
「来たかな……水無まで。こんな時に。」
「私がどうかしましたか?」
「もうどうなっても知らないかな。彼が暴走しているリストだ。」
顎で橋の方へ目を向けるよう促す。麗化の指示に従い井端さんが橋の方に目を移すと、両手で口を塞ぎ、目を大きくする。
「颯太……」
「おまえの弟かな。」
「どうして、颯太がここに。」
「私に聞かれても困るかな。本来、研究室で眠らされているはずの颯太がここにいる理由なんて。ただ、今言えることは、颯太を止めなければならない。これだけかな。」
今の状況を整理すると、橋の上で膝を抱えふさぎ込んでいる少年が暴走している能力者で、その少年は井端さんの弟でした。こんな感じでいいのかな。
弟さんの様子を見る限り、縮こまっているだけで暴れているようではない。麗化はどこで暴走しているなどと判断したのだろうか。
「すみません。麗化さん、俺はいったい何をすればいいのでしょうか?」
「颯太を捕まえてきてくれないかな。」
捕まえろと言われてもな……
考え続けても進まない、とりあえず話しかけに行ってみるか。メガネはかけておいた方がいいかもな。
相手に警戒されないように程よい距離でしゃがみ、視線の高さを相手に合わせて、柔らかく声をかける。
「どうしたの?」
俺の声に驚いたのか肩をビクリとさせ伏せた顔を俺の方へ上げる。
「来るな!」
俺をみるなり声を張り上げ拒絶の言葉を発す。
「ごめんね。驚かせちゃったかな?」
笑顔だ、とにかく笑顔だ。相手の警戒を緩めるためにも笑顔で、当たり障りのない話。
だがどれだけ笑顔をつくっても、どれだけ話しかけても警戒を解くことがない。どちらかといえば怯えているように感じる。
だが俺に対して怯えているように見えない。別の何かに対して怯えているのか。可能性として考えられるのは俺の後ろ、背後にいる奴らに、銃を構えている警察に怯えていることか。
麗化の野郎。足を引っ張ることばかりしやがって。麗化に言って、銃を下してもらわなければ。
折り曲げた膝を伸ばし、回れ右で後方へ、麗化の方向へ向いて、そして一言……のはずだった。振り返ると俺の視界には水龍がいた。水流ではなく水龍だ。
川から伸びた身体は俺が両腕を広げるだけでは足りないほどの太さがある。長さは水面に浸かっているところがあるため正確にはわからないが、俺の行く手を阻むように幅10メートルの橋を一度跨いでからの対面であるため相応の長さがあることは間違いない。
「嫌だ……来るな……」
消え入りそうな声が後ろからする。これで納得だ。弟さんはこいつに怯えていたのか。
これなら話は早い。水龍なんか普通はいない、確実に能力だ。ならばどこかにいるリストに言えばいいのだ。




