第七章の4
「まず、剛田 剛くんは無事に治療を終えたよ。健康状態も問題ないし、障害もない。ただ、右手の傷がね……」
傷が残ったのか。ガラスを突き破ったのだから当然か。
「しかも、その傷を見るたびにあの時のことを思い出すのか、二式をだせ、て、何度も叫ぶんだよ。」
俺の身に危険が降りかかるのか。
「俺は会いたくないですよ。あの時にでた被害者三人みたいになりたくないです。」
「でも、剛くんも同じ学校だよね。校内で出会うかもしれないよ。」
医療処置が終わったら解放されるのか。でもおかしいのではないか、逮捕協力というのだから、拘束され、施設に送られたりするのではないか。
「剛田は逮捕されたのですよね。刑務所等に送られないのですか?」
「本来であればリストの能力に対応できる施設に収容されるね。でもなぜか彼は、保護観察を3年だけで終わったんだよ。」
「例外処置を受けたという事は、彼は政府にとって有益であるのかな。」
「そういうことだね、麗化さん。僕も同じ意見だよ。」
麗化と依代さんは、剛田が収容されなかった理由に、何か思い当たることがあるのだろうか。
「その件については、後でお酒を交えながら話すよ。今は二式くんの安全が第一だからね。」
「お金は学が支払ってくれるかな。」
依代さんは麗化の提案に苦笑いで「了解です。」と答えて、話を続ける。
「観察保護がついているとはいえ、何が起きるかわからない。ある日突然、剛くんに襲われるかもしれない。細心の注意を払うことだよ。」
「肝に銘じます。」
護衛を派遣するとかしないのかよ、と思ったのだが、学校には麗化や帯刀さんがすでにいるためこれ以上増やされても、それはそれで面倒になりそうだから言葉に出さなかった。
俺はこの後、剛田の一戦について根掘り葉掘り聞かれ、帰るころにはへとへとになっていた。
俺は、すぐさまベットで横になり、残りの時間をゴロゴロして、怠惰な生活をしたかったのだが、玄関の扉を開けると井端さんの口から労いの言葉の代わりにこんな提案が来た。
「一緒にケーキを買いに行きましょう。」
「ケーキ?」
「ケーキです。前回、昼食をダメにしたこと、忘れてませんよね」
ここぞとばかりに井端さんは詰め寄ってくる。俺は背後にドアがあるため引くことはできない。
井端さん、左目に泣きぼくろあったですね。って、何まじまじ見ているんだ、俺。
近い近い、いい笑顔、近い近い、ベリー系のいい香り、これ以上はだめだ、俺の中で何かが爆発する。
「すみません。思い出せないです。」主に理性を保つのに必死で。
俺の返答を聞くと、わざとらしく溜息をし、近かった顔を話した。井端さんが離れてくれたおかげで胸の鼓動を抑えられそうだが、少しもったいない事をした気がする。
「あ、此処からは独り言なので聞き流してもらって構わないのですが。今、無性にショートケーキが食べたいですね。」「はい、喜んで買わせていただきます。」
俺の声?この声の出どころは井端さんの右手に握られているボールペン。彼女が普段使っているペンだ。
「これは何でしょう。」
あのペン、ボイスレコーダーになっていたのか。
「俺と井端さんの声ですね。」
「はい。実はこのペンには音声を録音する機能を有していまして。書く以外の使い方もできるんですよね。思い出してくれましたか?」
思い出しはしたが、今までデータを残していたことへの驚きの方が大きいですよ。狂気を感じるほどに。
「おかげさまで。でも、手持ちが心もとない状態ですので。」
少ない仕送りでの生活だしな。決して、ベッドの下にある、肌色の多い本が増えた事と関係はない。決して、だ。
「大丈夫ですよ。今日は25日なので、政府からお金が支給されています。それと、これからは成人向け雑誌の購入はやめてくださいね。後、ベッドの下の冊子は没収しましたので。」
「え……」
「当然ですよ。これから税金を受け取る側になるという理由もありますし、何より私は政府関係者に分類されます。条例で禁止されている行為を見過ごすわけにはなりません。購入は一定の年齢になってからにしてください。」
突然の出来事で立ち尽くす俺に井端さんは「早く行きますよ。」と、一言催促して、出かける準備を進めるのであった。




