第六章
放課後、いつもならグラウンドをヘトヘトになって周回する野球部員を見て優越感を持ちながら帰るのだが、今日はそうならないようだ。
「陽野くん、放課後、私のところへ来るように。」
ホームルームで、帯刀さんから言われたのだ。
華さんのこともあり、怒られるのではないか、と心配になりながら帯刀さんのところへ向かう。
帯刀さんがいる場所は見当がつく。この学校では国語の教師は図書室の管理を任される。そして、帯刀さんは国語の教師だ。今頃、図書室で受付をしているはずだ。
「美しい。俺の全てを受け入れてくれるようなこのなだらかな曲線。力を加えると壊れてしまいそうな華奢な身体。優しさが伝わる丸みを持った目。最高だ。だが、彼女も捨てがたい。力強さが伝わる太さ、俺を睨みつけるような角ばった目。ごめんよ。気の多い私を許してくれ。」
「何してるんですか?」
「私の楽しみを邪魔しないでくれるかな。」
「呼びつけたのは貴方ですよ、帯刀先生。」
「彼女たちへの愛の語らいは何よりも優先しなければならないんだ。」
「カウンターではやめてください。するなら人目につかないところでお願いします。」
「愛を育む事は道徳的にも良い事だぞ。私は愛を説いているのだ。」
「眼鏡に語りかけてる人が何を言ってるんですか!」
そう、図書室の受付で机上にスペースがなくなるほど眼鏡を置き、1つ1つに対して語りかけていたのだ。
この人が眼鏡に話しかけているところを見るのは2度目。最初に見た時は衝撃的だった。
「で、なんのために俺を呼んだんですか?」
「まったく、陽野くんは眼鏡への愛が足りないよ。後、どうでもいいけど逮捕協力が届いたんだ。」
逮捕協力をどうでもいいと言ったな。この人は眼鏡以外は本当に興味ないんだな。
「はい、これ。部室棟裏で殴り合いをしてるらしいよ。」
丸められた紙を投げ渡され、広げて見ると、そこには遠山高校の部室棟裏で能力者が暴行行為を行っていると書かれていた。
「ここじゃねーか。」
「だから陽野くんに協力願いが来たんだと思うよ。腕力強化のリストらしいから気をつけてね。」
「俺、観察力が上がるだけですよ、無理に決まってるじゃないですか。」
「断る、という意味?」
「当たり前です。」
「じゃ、この被害者を見捨てるんだね。」
「見捨てていません。自分以外に頼んで欲しいんです。」
「同じ意味だよ、陽野くん。これは、今現在起こっている事。今話してる間も被害者は殴られ続けているかもしれない。死ぬ可能性だってある。現場に一番近いリストは誰だい?」
「わかりました。」
拒否できないということがな。




