第五章の3
昼休憩になる頃には俺が華さんを何度も謝らせたという噂一年生全体に広がっていた。
実際は俺は謝るように強要しておらず、華さんが慌てて何度も頭を下げたのだ。
だが、必死に説明したところで、夕食どきに放送されている警察の活動を取材したドキュメンタリー番組の逮捕者の言い訳にしか見えない。
事実と違っていても、勝手に広がっていくのだから、噂というものは本当に恐ろしい。
改めて世間の冷たさを確認した俺は、まるで逮捕されないよう逃走している犯人のように、周囲の目を盗みながら華さんがいるはずの部室棟裏へ向かった。
「二式さーん。」
終わった。
某潜入ゲームの蛇おじさんも驚くほどのステルスで、誰にも気づかれないように部室棟裏へ順調に近づいていたのに、後は校舎から出て裏に回るだけだったのに、玄関の下駄箱から自分の靴を取り出そうとした瞬間その目標地点にいるはずの人に後ろから声をかけられたのだ。しかも周囲に聞こえる声で。
ミッション失敗。
周囲が次々に俺たちの方へ顔を向ける。目立ってしまった。あの時の2人が会したのだから注目されるのは当たり前だろう。
俺たちに向けられる視線が、華さんに対する心配目なのか、俺に対する軽蔑の目なのかは分からないがな。
ま、今はそんな事どうでも良い、とにかく注目を集めたのだ、早々に逃げなければ。
当初予定していた部室棟裏に着いた。人気の少ない場所ではあるが、ついさっき目立ってしまったのだ、稼げる時間は短いだろう。早く目的を聞き出さなければ。
「で、俺を呼び出した理由は?」
「二式さんを呼び出す?」
目的を聞き出そうと質問して返ってきた答えは、華さんが首を傾げる姿であった。
俺を呼び出した理由を忘れたのか。いや、唐突な質問で意図が読めていない可能性もある。
「俺がいない間、俺について嗅ぎ回っていたんだろ?で、今日は移動教室中の俺に昼休みに会う約束を取り付けたじゃないか。」
「そのことですね、既に解決していますよ。朝の事は忘れてください。」
あっけらかんにいう。つまり俺はこいつに振り回されてただけだったということか。巫山戯んなよ。
「だいたいあの時に変に急かすから昼休憩に会おうとか言ってしまったんですよ。二式さん謝ってください。」
俺が悪いのか?そもそも、移動教室の時に話しかけて来なければ何も起こらなかったような気もするが。だが、こいつの顔を見る限り、一歩も引こうとしていない。
「すみません。」ここは波風立てないでおこう。
「私が、あなたについて聞きまわっていたのは私の姉が何度も二式さんの部屋を訪ねていたからです。」
謝罪の言葉を聞くと、満足そうな顔をして、説明を始めた。
「解決した、というのは二式さんがどう言った性格なのかという事と、姉が何度も訪ねる理由が判明したという事です。」
さっきから出ている姉というのは誰だろう。
「姉が二式さんの部屋へ行ってたのは、お姉ちゃ…姉が空いているマンションを見つけるまで二式さんの部屋を間借りしていたからなのですね。」
今、お姉ちゃんと言いかけてたな。
「で、さっきからお前が言ってる、姉って誰?」
直球で質問してやる。俺のことを全く考えず、自論を押し付けてくるんだ。苛立ちをあからさまに伝えてやってもいいだろう。
「わからないんですか?今日の朝1番に授業を受けましたよね?」
「まさか、お前の名字って……」
「可変です。可変華です。」
あいつかーー!




