第三章の7
だめだ、思い出せない。それにそろそろ話さないとまた怒らすことになる。
「これだけ盛大に跡が残っていると、バカな自分でもさすがに気づきますよ。」
相手の機嫌をとりながら記憶を絞りだせ。
最初に会ったときあいつは俺の瞳を見て能力を判別した。なら自分にも見えているはずだ。あのときの記憶を出せばわかるのではないか?
あのとき、俺の目を見てあいつに喧嘩売られて、その姿と雑魚キャラが被って、その思いつきを男に聞かれて恨みを買った。
あれ?出来事は思い出すのに瞳の色は思い出せない。なぜだ?
注視していなかったから憶えてないのかそれとも印象が弱かったのか。印象が弱い?
そうか、だから憶えてないのか。
あいつはイレギュラーで変色がなかったのか。
それが本当なら憶測と確認で実証するほかない。
「話しすぎたな。次こそやるぞ。」
時間稼ぎもここまでか。
「俺の能力にはな、こんな使い方もあるんだぜ。」
男は言葉に合わせて思いっきり脚を振る。瞬く間に砂が舞って、俺に襲いかかる。
砂山を蹴りやがったな。足で何か遊んでる、と思ってはいたが、このためだったのか。
砂から目を護るために目を瞑り俯いたが、小さな砂からは護ることはできず、開けるのが困難になる。これでは避ける事ができない。諦めるしかないのか。
身体が引っ張られる感覚。そして砂の感触。俺、ヤられたか。
死んだのかな。痛みはあるが目を開いて確認するか。
地面が近い。やはり死んだのか。いや違う。目の先に右腕を伸ばした男の後ろ姿がある。突き飛ばされていない。
俺が何かしらで転けて、相手の攻撃が外れた。これなら筋が通るだろう。
「何故だ。何故攻撃を避けることができたんだ。」
避けた?俺は砂で目が開けられなかった。だから避けるタイミングを計れない。避ける事は不可能だ。それなのにあいつは避けたと叫んだよな。
「今度こそ。」男は右手を頭に添え怒りを露わにする、と思いきや急に足がもたつき、そのまま地面に伏した。
何が起きた。俺は立ち上がり、近くへ駆け寄った。
「やっと薬が効いたかな。」
公園の出入り口付近に目を向けると、麗化がいた。
右手には俺を二度も打ったハンドガン。
「話で相手の動きを止めてくれたお陰で薬を打つ事ができたよ。」
「麻酔で眠らせたのか。」男は倒れているが息はしている。
「その通りかな。ま、自分が打てるのは麻酔と君に打ったあの薬だけなんだけどね。君、不服そうな顔をしているね。戦闘の邪魔をしたかな。」
「いや、そんなことは。」
暴れる能力者を早急に捕まえるに越したことはない。だが、胸の痞えがあるのも確かだ。
「あの男の能力は脚の力か?」
「正解かな。」
やはりそうか。これで痞えが下りた。
俺の反応がおかしいのか、麗化は疑問を持った顔をしたがすぐに直して話を続けた。
「あの男の名前は速水 走太。パワー系の能力を持ったリストかな。聞いた話だと、国管理のグラウンドで能力を使う練習をしていたときに、監督の女性スタッフを突き飛ばして逃走したかな。」
能力を十分にコントロールできると自分で判断して逃走を試みたのか。
「で、今回の逮捕協力で自分の能力はわかったかな。」
「それが全く。」
「仕方ないかな。なら今から一緒に来て欲しいところがあるかな。」




