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泡沫の夢、幻の未来  作者: 蚊取り線香
第二章
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第二章の7

冷菜のやつ、大量に頼みやがって。お蔭で財布が寒くなっちまったじゃねーか。


俺たちは商店街のゲート付近で別れ、冷菜は食材を買いに、俺は帰路に着いた。

財布の中は、冷菜がテーブルに収まらないくらいの料理を頼んだため、空だ。次の仕送りが来なければ何も買うことができないだろう。


当然、財布を開いてみても出て行ってしまったお金は返ってくるはずがなく、道端にお金が落ちてることもないため、今の俺には頭を抱えながら足を進めるしかできなかった。「今月どうすっかな。」


ここに来て重大な事に気がついた。今俺がいるのは葉山荘、外付け階段を上がって突き当たりの部屋、玄関扉の前。つまり俺の部屋の玄関扉前。

何故俺は目の前の扉を開けることができないのか。理由は俺の手持ちを見てくれたらわかるだろう。


現在の所持品は、不味いで有名な泥水、時間を置いてラベルと不釣り合いの温度になった冷た〜いお茶、紙幣や硬貨のない財布、この3つだ。そう、井端さんから言われたショートケーキがないのだ。


このまま扉を引くと井端さんから、何か言われる事になる。

だが、財布に金がないため、今から買いに行くという選択肢はない。


ここは、文句を言われると覚悟して入ろう。寛容な井端さんのことだ。許してくれるかもしれないからな。


「なぜですか。」


扉を開けるやいなや声を張り上げて問い詰める言葉が飛んできた。しかし、この声の持ち主は目の前にいない。


部屋の奥で井端さんとスーツを着た麗化が机を挟んで、何か言い合っているため発信源はそこだろう。


井端さんが机に両手を付き、身を乗り出しているところから一方的に声を上げたのだろうか。いつも温厚な井端さんが珍しい。これは話の内容が気になる。


俺は靴を脱ぎ、恐る恐る近づいた。


「噂をすればなんとやらかな。」ばれたか。いや、1Rだから、目線を井端さんから玄関に移せばわかるんだけどさ。


「その言い方、俺について話していたのか。」


「そうなるかな。上からの命令がでてね。君の処分が決まったんだ。」


処分?何の話をしている。上からの命令?


「もう忘れたのかな。薬を打ったじゃないか。」


薬の話か。「だがその件は、俺が能力を持つことができなかった事で終わったはずだ。」


「君の中では終わった事でも上層部では終わってないかな。特に君については少し異例だからね。」


「何が異例なんだ。薬を打って合ったら超能力を得て、合わなかったら超能力を得られない。そして俺は後者だっただけだろ。」ただそれだけのはずだ。


俺の返しを聞いた麗化は「そういえば、薬について話してなかったかな。」と呟き井端さんの方へ一度目を移し、すぐに向き直った。


「あの時打ったのはO-0314(オー・マルサンイチヨン)うまくいけば能力を得ることができる。失敗した場合、意識不明の重体、最悪死に至ることがある。これには例外がながった。だから今回の件についての対応が考えられてなかったかな。処分決定をするために……」


意識不明、重体、最悪の場合は死……テレビや新聞でしか見ない言葉が頭を駆け巡り、麗化の説明が耳に入らない。


麗化は今まで例外は無いと言っていた。なんだそれ、馬鹿げてる。そんな危険なものを俺に打ちやがったのか。呆気にとられて物も言えない。


「で、その処分の内容はもう一本薬を打つことかな。」


「は?」どういう意味だ。おかげでなんとか気を取り戻すことができたが、普段の声から考えられない上ずった声が出てしまっただろ。


「聞こえなかったのかな。ならもう一度言うよ。再び薬を打つことになった。」


生死を彷徨(さまよ)う薬をまた打つだと?ふざけるな。


「だから、薬を打たせてもらおうかな。」


勝手にことを進めるなよ。「そんなの嫌に決まってるだろ。」


「上から決められたことかな。諦めて注射を受けることをお勧めするよ。」


「死にたくない、出てってくれ。」俺は荒ぶった声で言い放つ。


「やっぱ言葉だけだと難しいかな。」


麗化はそう言って右手を内ポケットに近づけていく。


彼女の仕草を見るなり、俺は手に持っていたものを投げ捨て玄関の方へ向かった。


スーツの裏にあるもの、そう、ハンドガンだ。


「クソッ!」なんでこんな時に……

ドアノブを回してもドアは一向に開く様子を見せない。


開け!開け!開け!開いてくれ!


何度試みても同じ。壊れたのか?さっきまで使えていたのに?タイミングが良すぎるだろ。


「ふざけるなっ!」怒りと焦りを交えた拳で一度ドアを叩くも、返ってくるのは鈍い音と痛みだけ。


「諦めることも大切かな。」


声のする方へ顔を向けると、待っていたのはいつか見た得意げな笑みだった。

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