第十三章の3
間に合ったー
なぜだろう。なぜ俺はこんな気持ちになっているのだろうか。
さっきまでは、いつものような爽やかさがなく、思い出した時に溜息をする宮を心配していた。
だが、今の俺は心配という感情はなく、笑顔が引きつり、今まさに作られた右手の握り拳で宮を殴りたい気持ちを必死に抑えている。
「宮成君、大丈夫。」
「宮辺君、放課後食べに行こう。おいしいもの食べると気分もよくなるよ。」
落ち込む宮を取り囲み思い思いの声をかける女子集団。中心にいる宮の消息は確認できる程度の女性の人数ではあるが、あれだけ囲まれると逃げることなどできないだろう。
退路が断たれた宮は、四方から掛けられる誘いに一つずつ丁寧に無理に作ったとしか思えない笑顔で答えている。
そして、この無理な笑顔も周囲の女子の好感を掻き立てているのだろう。
何かが原因で憂鬱な気持ちになっているのであれば、静かなところで気持ちを整理するのが効果的だ。だが、宮は周囲が騒ぎ立てるため気持ちを整理する時間が与えられていないようだ。
この状況は哀れに思う。しかし、それはそれ、これはこれ。女子に囲まれ優しい言葉をかけられているのは一人の男性として見逃すことはできない。
嫉妬がなんだ、妬みがなんだ。羨ましいものは羨ましいのだ。今すぐにでも奴を殴ってすっきりしたい。
そんなことすると取り巻きに袋叩きにされるのが目に見えているためしないが。
「いて。」
なんてない。今のはいきなり右足に受けた衝撃に対し俺が反射的に発しただけ。
全く痛みはない。
「冷菜。いきなり蹴るのはどうかと思うぞ。」
「呆けた顔をしていたので。」
あほ面でも晒していたか。
「宮君のようになりたいと思うのはやめてください。」
あほ面ではなく、羨む顔をしていたのか。
「あそこまで好かれたいとは思わないよ。宮の苦労を見ているからな。」
何度も告白され断ると目の前で泣かれる。好意を断ることだけでも辛いのに。
それに、無用意に特定の女子と遊ぶと騒がれる。冷菜は何故か許されているようだがな。
とにかく制限が多くかかっているのは楽しくない。
「モテたいことは否定しないのですね。」
なぜか寒いな。窓は開いているがそこからではない明らかに不自然な風で…
「冷菜。風が、風が出てる。」
ゆっくりと肌をくすぐる様な風が冷菜を取り囲むように流れている。風見鶏ではないが、短い髪が微かに揺れている。ヘアースタイルの特徴か、長めに揃えられている下の髪の方が風の流れがわかりやすい。
「難しい。気を抜くとこうなる。」
苦戦しているようだな。表面では気張っているようには見えないが。
そのまま表現するなら目を閉じて気が立っているのを治めた感じだ。
「能力者になって日は浅いからな。」
「ひーくん。先輩風、吹かせないで。」
「実際先輩だからな。」
あれ、今先輩風って。
「冷菜。もしかしてだけど先輩風ってわざと。」
風の能力を持つ冷菜が風のつく表現をする。そんな冗談を言うとは。
俺の言いたいことを察したのか冷菜には珍しく大きく目を開いた。そして、すぐにいつもの表情に戻る。しかし、口元を見ると微かに震えており、無理に表情を作っているようだ。
「どうした。冷菜。」
わかりづらいが、確実にうろたえている。そして俺はその様子を見て頬が緩む。
俺の声が震え、笑いを堪えているのが何よりの証拠だ。
ひそかに笑っている俺が気に入らないのか、それとも恥ずかしさを隠すためか、とうとう冷菜が足を出してきた。手ではなく足だ。場所は弁慶の泣き所と呼ばれる部分。そこを何度も蹴ろうとしてくる。
蹴りの勢いこそないが、狙いが悪い。
俺は必死に冷菜を宥めながら守りに徹するしかなかった。
11/29日に投稿できるといいな~
既に投稿している話も整理して読みやすくしたいし…
時間がいくらあっても足りないですね。
頑張って時間を作らねば
これからも蚊取り線香をよろしくお願いします。




