第二章の6
井端さんとの電話を終え、扉を開くと目の前に冷菜が現れる。
「何してるんだ?」
「愛しの彼女への連絡が終わる頃だと思ったので来ました。」
「見てたのか?」
「男子トイレですよ。見ることはできません。」
「そうだな、すまん。」
「もういいです。はやくテーブルへ行きましょう。」
冷菜に連れられ着いたのは窓際のテーブル。俺は窓を右側にして座った。テーブルの上には既にメニューが開かれており、俺がトイレに行っていた間にメニューを見ていたことが窺える( うかがえる )。
「何から話せばいいのですか?」「ん?」
俺がメニューを手に取った事を確認するや冷菜が話しかけてきた。
「ここにきた理由忘れていませんよね。」
「忘れてない。」昼食を誘うために俺が言った事だからな。だが、あの時は出任せであった為、学校の事を聞くとしても何を質問すればいいのかわからない。
質問しやすく且つ相手も答えやすい事といえば、身辺の変化だろう。学校で変化した事それは、「転校生について教えてくれ。」
俺の問いを聞くと、冷菜は露骨にため息を吐き、グラスに入った水で唇を濡らして口を開いた。
「転校生を一言で表すなら可愛い子です。身長は私よりも低く、華奢。髪型はショートかな。自立心が強く、活動的。」
冷菜の言葉から想像するに、小柄で活発な女の子といったところか。
「あと、貴方について周囲に聞き回っていますよ。実際、私も質問されましたし。」
「俺について聞き回る?」やはり転校生は、麗化たちの仲間か。
「ひーくん。今なら許してあげますから、転校生に何をしたのか、教えてください。」
「俺は何もしてない。第一に俺は転校生と会ったこと無い。そして、転校生がいることを冷菜から知らされるまで、俺は知らなかった。そんな俺が転校生に何ができる。」
「自己弁護は以上ですよね。」
言い訳しているように聞こえたのか、冷菜は俺の説明を打ち切る形で言ってきた。
「実際そうですよ。ひーくんは弁明していると考えているかもしれませんが、必死に言い逃れしようとしているようにしか見えません。」心を読んだか、このさとりめ。
俺は何もしていない。だが、これ以上は無駄だ。身の潔白を示そうと努力する度に空回りし、相手からは子どもが駄々を捏ねているように映るだけだろう。
それよりも、転校生が俺について探っていることが気掛かりだ。俺が学校を休んでいることから、ただの興味という可能性もあるが、万が一の事を考えて聞いておくことが吉だろう。
「冷菜も転校生から俺について聞かれた、と言ってたがどんなことを聞かれたんだ?」
「話をそらそうとしてますね。」
痛いところを突いてくる。確かにその節もあるが、メインはそこではない。最初から疑いの目で転校生を見たくないからだ。
ここは、流して先に進めたい。
「えっと、あ、うん。勘定を俺が全て持つ事で、ここはひとつ。」一芝居打ってみたが、この安芝居で相手は納得してくれるだろうか。
「あからさまに動揺してますね。ひーくんが分かりやすい反応をするところが少し気になりますが、奢ってもらう側なのでいいでしょう。」
なんとかやり切れたようだ。
「それでひーくん、転校生から聞かれたことですが、注文を済ませてからでいいですか。そろそろ限界です。」
「ぜひそうしてください。俺も、限界です。」
それもそのはず、時は既に13時になろうとしているのだから。




