封筒
「ヒトやめますか?」俺は、A4サイズの用紙に大きく書いている一文を口ずさんだ。
自分が言った言葉を聞いて改めて馬鹿げた事だと思う。だが、俺はその言葉に少し惹かれていた。
そのプリントには、契約すると特別な薬を注射する権利を得る、そして、その薬を打つと超能力者になれるという大まかな流れが絵で表現されているだけで、契約方法など、細かいことは無い。
俺は、このプリントが入れられていた角形2号封筒の残り全て机の上へ無造作にばら撒き、詳細が書かれているものを探した。
B5サイズだろうか、その用紙には1.定義2.規約への同意3.プライバシー4.禁止事項5.責任、あと他6項目の規約が書いてある。
⒈項目の定義は書かれているがそれ以外の項目は、同封されている冊子の各項目に関することが書かれているページの番号を表記されている。
確かにばら撒いた資料の中に冊子が1冊だけある。用紙の云う冊子とはこれのことだろう。
冊子は、手のひらサイズであるがページ番号は記されていない。これは、各項目内容を読むにページ数を数えていかなければならない。この作業は、精神的に疲れることだとすぐに判る。
俺は、冊子を開く事をせずに先ほど読んでいた用紙に目を戻した。用紙の裏には「同意する、しない」が書かれている。同意するのほうへボールペンで勢いよく丸をした。
この後、どうすれば良いのだろう?
なぜなら、郵便番号や住所が書かれていない。同意したのにそれを報せる手立てがない。
連絡手段を考えていると呼びベルが聞こえその後すぐ、宅配業者の元気な声が聞こえた。声から察するに男性だろう。
「待たせたら悪いか。」用紙の件を頭の片隅へ追いやって、宅配物を受け取るため印鑑を持ち、玄関へ向かった。
ドアを開けるとそこに人の姿は無く、ただ足下に640×445×255ぐらいの段ボール箱が置かれてるだけ。俺は怪しみながらもその段ボール箱を手に取り部屋に戻った。
俺の部屋だよな。
俺が通っている遠山高校の正門から東へ約3キロに位置する葉山荘。外付け階段を上って突き当たりの部屋、奥から3番目の203号室。間違ってない。次は中だ、1R、玄関には俺の靴、洋式の部屋にベット、散らかったままの机、アナログの掛け時計、キッチン、そして知らないスーツの女性。これも、1つを除けばあっている。そう、1つを除けばだ。
俺は「すみませんがどちら様ですか?」と彼女に問いかけたが、「あなたが、陽野ひの 弐式にしきさんですね。」と俺の名前を言い、確認をするだけ。
俺はもう一度同じ内容で訊いても、彼女は俺の質問を気にもとめず、散らかった机から1枚プリントを取る。
何か小声で呟いたかと思えば、哀れむような目で俺の方に向き直り「確かにこの私がしっかりと受け取りました。」と、まるで自分自身に言い聞かせているように言った。
そして、こう続けたのだ。
「これであなたは、ヒトをやめました。」




