プロローグ
――拝啓。
お父さん、お母さん、お元気ですか?
冬も明け、春の兆しが見え隠れしてきた今日この頃、町では新しい生活に胸を膨らませて歩いている人々の姿も見えますが、私はそんな彼らをしり目に悠々自適な生活を送っていました。
あの日、突然会社を辞めると言って家を飛び出してしまったことに少々申し訳なく思っています。
『――新郎、入場をお願いします——』
それでも、私は自分のやった行動に後悔はしていません。もしあのまま会社に勤めていれば、私はいろいろとだめになっていたかもしれません。いや、もう駄目になりかけているだろうと思えたからこのような行動をとったといっても過言ではないでしょう。
『――それでは聖j……いえ、新婦様のご入場です。皆様、盛大な拍手を——』
お母さん、お父さん、昨年私が実家に戻った時、『いつになったら結婚するんだ』と言っていましたね。まだ私は若いというのにどうしてそんなに急かしてくるのかとつくづく思っていましたが、実はその件で話があります。
『――えー、病める時も、健やかなるときも——』
もし何かの手違いでこの手紙が届いたとしたら、私は今このような状況にあるのだと理解して、私のことを忘れて弟ともどもどうか幸せに過ごしてください。信じられないかもしれませんが、私もいまだに夢であってほしいと願っているのですが、これは紛れもない現実なのです。
『――それでは、新婦様、あなたはいかなる時でも彼を愛し続けると誓いますか?』
『はい。誓います』
『……わかりました。では、新郎。あなたは彼女をいかなる時でも守り、愛し続けると誓いますか?』
このたび私、桃瀬千秋25歳。
「――はい……」
見知らぬ世界で聖女様の伴侶になってしまいました……。