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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪魔憑き

作者: 高葉 花

此れは、愛に憑かれた人間の噺です

此れは、法に憑かれた人間の噺です

此れは、憎しみに憑かれた人間の噺です

どうぞ、御暇にならない限り悪魔に憑かれた人間の噺を聴いて下さい


「愛に憑かれた人間の噺」

嗚呼、美しきカナリヤよ

お前のことを愛してる

声を聞かせてはくれまいか

その美しき声を

私に響かせてくれまいか

何故、何故何故何故何故何故何故何故何故

何も言わぬのだ

私に声を聞かせてくれれば良いのだ

何故だ、


私は悪魔に憑かれたのだ

カナリアの美しい御声に憑かれた悪魔なのだ

断末魔でさえ美しく聞こえてしまうほどに

カナリアは美しい美しい声を部屋中に響かせながら

彼岸花を咲かせ

もう二度と声を出さなくなった


嗚呼美しきカナリアよ

声が出ないのならばお前を愛することなどもう出来ないのだよ

最後に君の

美しい

声が

聞こえて

良かった

この耳に刻まれた

君のノイズは

今も耳の中で


真っ赤に染まる髪、唇、顔面、カーペット。

さながら血の池地獄でしょうか

愛は、本能を呼び覚ますのです

理性を超えた本能を


「法に憑かれた人間の噺」

私は、固く冷たくなった其れを見ておりました

其れは、人と呼ぶには人らしい処が無く

モノと呼ぶには余りにも生き物らしい姿だった

其れは、喉を奇麗に刈り取られまるで歌を歌っているような姿だった

否、刈り取られて居たのではありません切り取られ其れの手に抱かれながら椅子に座り歌って居たのです

躰べっとりと付いた筈であろう血痕が無かったものですからより奇妙に思えたのです

其れは、死体にしては美しく、生きた人間にしては、動かない人形のようでした

私は、大きな屋敷の中に居ります、誰も立ち入らなかった筈でしょうに今朝になり調べる事となったのです

重厚な扉を開けたら其処に其れが在ったのです

そうです、死体がです。

女の死体が其処には在りました。

今、多くの者たちが屋敷中を探しております

私の、地位を呼ぶ声がします

焦った声から余ほどの事が有ったのでしょう

私は、何が有ったのかと尋ねました

青年は、犯人が居たと申します

私は、驚きその場に駆けつけました


犯人は、整った顔立ちの青年でした。目は何処か虚ろで空でも見ているようでした

青年は、人をあのような姿にした事をあっさりと認めました

しかし、彼は裁判にかける事すら無かったのです

何故ならば、彼をよくよく調べた処、彼は心神喪失に依り責任能力なしとされ数ヶ月の入院と云うほぼ無罪放免という形となった

私は、許せませんでした

彼は、あれだけではなくほかにも十数種類の死体をあの屋敷に飼っておりました

私は、許せませんでした


気が付けば私は悪魔に憑りつかれておりました

悪を裁けぬ法に憎しみを抱いた悪魔と化して仕舞ったのです

私自身が悪と為ってでも

青年は、コンクリートに血を染み込ませ

断末魔を漏らしておりました


目の前に檻が見えます

私自身が裁かれる側と為って仕舞いました

ですが、私は

あの青年の

整った

顔が

歪んで

裁きを受け

死んで逝った事を

良いことだと思います

間違いでは無かったと思います


彼の目は、血走り今も裁けぬ悪を裁こうとその双眼をギョロギョロヨと動かしております

法に憑かれた彼は

新しき法を自分自身の中で創ったのです

彼の法は、彼自身の本能を呼び覚まします

理性を超えた本能を


「憎しみに憑かれた人間の噺」

私の姉があの屋敷に行ってもう二週間も帰って参りません

私は、姉を探しに夜こっそりと家を抜けだしました

その屋敷は、町の外れに在り一見、古城のようにも見えます

私は、屋敷に入る条件を風の噂で聞いた事が御座いましたので条件に沿った美しい装いをいたして屋敷の重厚な扉をノックしたのです

中からコツコツと革製の靴の音が聞こえ一歩後ずさりました

唾を飲み込む音さえ普段の倍以上の大きさで聞こえました

中から出てきたのは顔立ちの整った若い青年でした

にこやかに中へ案内された時は、一生戻れない気がして一歩が重く感じられました

広い屋敷に二つの靴音が一定のリズムで刻まれていきます

屋敷の奥に有った大きなテーブルには沢山の料理が並んでおりました

これを食べたら、眠らされ、閉じ込められるのではないかとも思いましたが青年の笑顔に応えるべく椅子に座り丁寧に料理を頂きました


私達は何事も無く、時間だけが過ぎていったのです

私は少々の眠気を感じ姉の情報が出てきそうにないこの屋敷から出ていくタイミングを計っておりました

ドンドンと部屋の奥からノックの音が聞こえると其処から美しい女性が出て参りました

私は其の女性を見た瞬間其の正体に気が付きまた

私の姉です

彼女は青年から歌うようにせがまれています

彼女は私のことを一目見ました

彼女は白い顔を青くして私を見つめ返しました

彼女は歌いませんでした

歌えませんでした

青年は早くとせがんでいます

赤子のように


私は姉を許せませんでした

家を忘れ、母の気持ちを忘れ、家族を顧みなかったこの女が

否、あの男が

あの男が姉を誑かしたのだ

あの悪魔が私の家族を滅茶苦茶にしたのだ

私はナイフを手の持っていました

私はあの青年を一突きに殺そうと思いました

しかし叶わなかったのです

後ろから大きな衝撃を与えられていたのですから


目が覚めると檻の中に居りました

僕は、あの屋敷に居た筈です

僕は姉を探して

あの屋敷に

居た筈だ

なのに

何故、

この様な

場所に居るのでしょうか


僕はすぐに、檻から出されました

然し、僕は腹のナイフを見ておりました

何故、如何してなどとは思いませんでした

ただあの日のことを思い出していたのです

僕が犯罪者に仕立て上げられた

あの日の事を


三人の人間の噺はお仕舞いですが時間が御座いますのならもう少しお話を聴いて行って下さい


[真実:犯人の独白]

私は、あの少女と目が合った時全てを悟りました

いえ、正確には少女は少女では御座いません

あれは、私の弟に御座います

少女は少年で御座います

彼が私を連れ戻さんと此処に来た事は安易に想像できました

然し、予想外でしたのは彼の眼差しでした

彼の眼差しは私にではなく弟に向いておりました

其の眼差しと云うのは何とも言い難い情熱のような暑さが御座いました

私は恐怖だったのです

今まで私を愛して下さった彼が数時間前に会ったばかりの少年に熱を向けているなどと云うことに

彼は私に歌えと申していらっしゃるようですが其れはさながら宝石を見せびらかす様で何とも言えませんでした


私の目の前には二つの肉塊が御座いました

一つは意識を追いやられた少年

一つは意識も命も追いやられた青年

否、女性でした

私は彼、いや彼女を愛しておりましたからその生首だけでも愛でようと思い首を胴体から切り離したは良いものの体中に付いたどす黒い彼岸花を私は見ていられなかったのです

彼女の纏っていたお召し物を丁寧に脱がせ体を拭こうと思った時妙な事に気が付いたのです

その躰は男性とは思えぬ作りだったのです

僅かですが確実に膨らんだ胸元

足と足の間に有るべき其れも御座いませんでした

私は、彼が彼女であった事を強制的に認めなければ為りませんでした

そして、私は気が付いたのです

彼女のお顔が安らかだと云うことに

私は疑問でした

ですが気が付いたのです

彼女が本当に愛していたモノに

其れは、声です

彼女自身の声こそが彼女が愛していたモノです

私は決意しました

彼女を女性として死なせる事に

彼女に付いた彼岸花を拭いドレスを着させました

そっと椅子に座らせ首を膝の上に置き寝むらせました

私は次に彼について考えました

私は彼が憎かった

彼を殺したくなるほどに

ですが其れと同時に生き地獄を魅せてやりたいとも思いました

私は少女を少年に戻し違う部屋に寝かせました


私へのあの人の愛を奪った罪は重い

私の世界はあの人によって回っていたのです

あの人が居ないのならば生きていても死んでいても同じです

ですから私は


[事件:その後]

首を落とした死体があの屋敷の主であり

其れを殺した濡れ衣を着せられた青年は犯人の弟であり

其の青年を刺したのが此の事件で狂った刑事だった

そして犯人は自ら真実を告げ命を絶ったのでした

此の真実が分かったのは犯人の死体が見つかった後

つまり、事件が起きてからかなり後だったと云う事でした

僕が刺された後の噺だったそうです


お分かりの通り、僕は死にませんでした

幸いにして僕を刺した人は止めを刺すほど冷静では無かったようです

僕は病院のベットの上で目が覚めました

目が覚めるとは可笑しいかもしれません

何故なら僕の世界は真っ黒で何も有りはしなかったのですから

生死をさまよった挙句、視力をなくし、二年という長い月日をも失ってしまいました

ですが、生きていて真実を知る事が出来て良かったと思います


僕は思います

ヒトは悪魔です

ヒトの心は悪魔です

ヒトの欲は悪魔です

ヒトの存在が悪魔なのです

悪魔がヒトを狂わせるのです

僕は、心に渦巻く悪魔も暴走を止めることは出来ないと思います

きっと、貴方も


薬品の臭いが鼻を突きます

何時までも

何時までも

あの日の事が

忘れられないのは

瞼の裏から離れないのは

僕だけでしょうか

遠くで虫のなく声が聞こえた

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