ふすまの鍵と僕の成長
僕の家はふすまで部屋が仕切られていて、部屋数は二つと三人家族には少し狭い。
ふすまには鍵など無いが、ふすまとふすまの間の上の方に雑誌か何かを丸めて詰めれば、鍵の出来上がり。当時幼かった僕にはその鍵を開ける術なんて無かった。
鍵をするのは、父さんで。母さんと二人で真剣な話し合いをするみたいだったから、僕は一人でテレビを見ていたり漫画を読んだりしていた。その頃僕はたったの六歳で、寂しいと感じてはいた。でも、寂しいと言ったら母さんが困るのも、申し訳なさそうに笑うのも知っていて、僕はそれが嫌でふさぎこんだ。
僕は十三歳になった。背は、もうふすまの一番上に手が届く程の高さになっていて。
それでも父さんはまだ壊せる鍵を作っていた。
「僕の背が伸びたことに気付いていないのかな」
ありえない。そんなことを思いつつ、唇の隙間からもれた言葉。
まだ、そんなには経っていないかな。初めて鍵をされたあの日から。でも大分経った気もする。たったの七年、大きな七年。
僕はもう理解していた。何をって、このふすまの向こうでの状況を。
怯えながらすすり泣く声と、苛立ちを抑える溜め息と。少し大きな物音と。それからたまにする、情けない怒鳴り声。
おもむろにそれが終わると、何もかもが平和になって、世界中が平和になったんじゃないかと僕は錯覚する。
「話し合い」が終わった後の父さんは優しい笑顔だったし、母さんは父さんの後ろで微笑んでいたし。
それが僕には嬉しかったけど悲しかった。僕にももう解るんだよ、父さんの手に力が入ってるのも、母さんの目が少し赤いのも。
だから僕も笑ってるけど泣きそうなんだ。
いつも止めに入ろうと、その鍵を壊そうと腕を伸ばしては縮める。
今日も鍵を外せない。
今日も世界中が勝手に平和になって。
僕には世界を平和に出来そうになかった。
この手はとっくにそこに届いていたのに。
短いですね。キイの書く物は全部短い(汗)
ジャンルも分からずその他に。
読んで頂いてありがとうございました!