表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/27

第七幕 1

第七幕 1


 フィアンマ国とスピード協定を結んでから半年が経っていた。

それまでは細々と行われていたお互いの国の資源の売買を、国を挙げて推進し、テュルクワーズは水と農作物を、フィアンマは燃える石や希少な鉱石などをやりとりすることで両国の人の出入りも格段に増えた。

 しかし、テュルクワーズに停滞した怪しい雲行きを完全に晴らすにはいたらず、一時期は影も見つからなかったオスクロ国の噂が、最近になって再びちらほらと聞かれるようになっていた。

 そういった噂の多くはフィアンマ国の商人が、品物と一緒に持って来る。

「オスクロ国が燃石や燃水を大量に仕入れてるって?」

「まあ、あそこはもともと、燃料剤を大量に使って、キカイとか、なんかよく分からないカラクリを作ってる学者が多いからな」

「いやいや、それにしても異常な量だよ。この間なんて、小さな村なら一夜で燃やし尽くせるだけの燃料剤を発注してきたぜ?」

「うちの鉄鉱石もっスよ。銅や鉛まで。さすがに金や銀はこないが、買えるものは全部手を出してるって感じっス」

「労働斡旋のホーリーが言ってましたけど。オスクロは原住民を傭兵として募集してるとかなんとか」

「原住民!? おいおい、あいつら戦争でも始める気かよ?」

「バカ言え。フィアンマとテュルクワーズが協定を結んだんだぞ? いくらオスクロ国といっても、二大国を相手に戦うわけがないだろう。万が一そうなっても、勝つのはどっちか。子供でも分かる」

「おうよ、返り討ちにしてやんぜ!」

「ですが、あの原住民ですよ? あいつら一人で、普通の人間の五人分の威力の言霊術を使うっていうじゃないですか」

「そりゃあ、そうかもしれないが、いくら原住民といえども陣地から引きずりだしゃあ、何もできねぇ。さすがに、全ての属性の言霊術を扱える原住民はいないだろ」

「そうっスね。それに、フィアンマにはアドリア―ナ様が、テュルクワーズにはロレンツォ様がいますからねぇ。――そういや、火霊祭のときのアドリア―ナ様の技見たっスか? あんなでっかい火龍を躍らせるなんて、さすがは女王様っス!」

 こんな具合でオスクロ国に出入りしている商人や、彼らと交流のある商人たちが多様な情報をくれるのだ。さすがにそれら全てが王城に上がってくるわけではないので、俺は変装をして、日夜城下町での調査を精力的に行っていた。

決して、王城に居づらいからとかそういうのが原因ではない!

「なあドミニカ、原住民っていうのはそんなに強いのか?」

 日本でいうところのカフェに俺はいた。商人の出入りが多い軽食屋の、外通りに面したテーブルで近くに座る商人たちの話に耳を傾けていたのである。

「……うん」

 対面の席で同じようにフードを目深に被っている少女はゆっくりと頷いた。今日は妹のライライは城で留守番をしており、他には護衛の兵士たちしか付いて来ていない。その彼らにしても変装をして周囲の町民や商人になりすましているため、傍目には怪しいところは何もない……はず! さっきからウエイトレスのおねーさんが、フードを被っているのにサングラスをしている俺をちらちら見ている気もするが、きっと自意識過剰なだけだろう。

「テュルクワーズなら時空……フィアンマなら火炎……オスクロなら光影……それぞれの大国には、それぞれ固有の大精霊がいる……。そして原住民は、その精霊が、人と交わってできた種族……人でもなく、精霊でもない……。だから……強い」

 他に話す人がいなければ、ドミニカはゆっくりとだが普通に話してくれる。単語と単語の合間にはどう言うべきか迷うような間があるが、妹のライライほど飛躍と簡略の過ぎた話し方はしないので助かる。

「……わたしも、ライライも……テュルクワーズの原住民の血が少しだけど……ある」

「そうなのかっ!? あっ、だから、時空の言霊術を使えるのか!」

 時空の言霊術を使えるのは、テュルクワーズ国内を探しても数えるほどしかいないらしい。俺を地球から呼び戻したのもラインハルト姉妹なんだそうだ。

「声……大きい」

「ごめんなさい」

 ドミニカだけでなく、隣の席に座っていた女性二人も俺の品位を疑うようにこちらを睨んでひそひそしている。

「でも、オスクロ国はどうしてそこまでしてテュルクワーズと事を構えたがるんだろう? 要望があるなら話し合いに応じればいいのに」

 フィアンマとの同盟協定後、オスクロにも協定を結びませんか、と話し合う旨を記した手紙を出したのだが、一向に返事は来なかった。手紙を運んだ使者たちによれば、手紙は間違いなく謁見にて国王に渡したということだから、王城内で揉めているのだろう。

 俺はようやくテュルクワーズとフィアンマの歴史、社会情勢などを学んだばかりで、まだオスクロ国まで手が回っていなかった。

「……分からない……でも、イザベルに聞く、といい……」

「イザベル? どうして彼女に?」

「イザベルは……オスクロ国の偉い人、だった……今は、違うけど……」

 初耳だ。しかし、両国の関係を考えれば、複雑な事情があるのだろう。

「……リセイ様」

 イザベルの複雑な事情について考えていると、ドミニカがやけに熱っぽい瞳で見つめてきた。

「なんだ?」

「この……ビーフマッチボムボールとイチゴと緑のアイスパフェ、食べたい」

「ちょっと待ってくれな」

 食べ物の名前だけはやけに流暢なのはなぜなんだ? と思いながらアレクに渡された財布の中身と商品の合計代金を計算する。……ギリギリ足りそうだ。

「いいぞ」

「すいません」

 雷光のごとき素早さでドミニカが、通りかかったウエイトレスを呼び止めた。

 ……あの細い体のどこに入っているのか知らないが、ドミニカは見た目に似合わずけっこう食べる人だった。たぶん、これが狙いでよく俺の調査についてくるんだろう……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ