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恋愛者の特別性

作者: 七島新希

 私はベッドに押し倒されていた。視界に映るのは愛しい彼の顔と、その右手に握られたアイスピックの鋭い切っ先。今まさにその切っ先は私の目に突き立てられようとしていた。

 なぜなら、彼は私の目を欲しているのだから。「目」を何よりも愛する彼は、結局私自身よりも私の目を手に入れたいのだ。








 私達は普通の恋人同士だった。世間一般の人達と同じように何気ないきっかけで出会い、お互いに恋をして一緒にいる、ごく平凡な。

 彼は物静かであまり表情が顔に出ない人だった。交友関係も狭く、何を考えているのかわかりづらい、掴みどころのない人だった。そしてどことなく儚くて危なっかしかった。

 彼は他人の目を異常なくらい見つめる傾向にあった。静かにじっと、会話をしている時もその眼差しは常に相手の目に注がれていた。

「君のまっすぐで澄んだその瞳が僕は大好きだよ」

 彼はいつも私の目を褒め、そこが好きだと言っていた。だから、私には目以外に価値はないのかと、言われる度に密かに傷ついたりもした。けれど、それは何も私に対してだけではなかった。

 ある時、彼とデートしていた際に小さな子供を見かけ、可愛いねと話した。すると彼は

「うん、純粋でキラキラした綺麗な目をしているからね。全く濁っていないし、透明度が高くてすばらしいと思うよ」

と私ではなく子供の方にじっと視線を遣りながら言った。

 そんなどこか変わっている彼の秘密を私が知るのに、そう時間はかからなかった。








 彼の家に初めて行った際に私は見つけてしまったのだ。彼の秘密を――コレクションを。

 その時、彼は買ってきていたケーキを切りに台所に行っていた。彼の部屋で彼が戻ってくるのを待っていた私は、何かやましいアダルトな本とかが隠されているではないかと部屋中をこっそり探索していた。

 色々なものの隠し場所として利用される確率の高いベッドの下を覗くと何かがあったので、私はそれを引きずり出した。それは横長で、ベッドの下にギリギリ収まるぐらいの高さがある大きめの金属製の箱だった。

 私は好奇心からその箱を開けてみた。中には蓋がされた透明なびんが箱いっぱいに入っていた。私はそのうちの一つを取り出し、息を呑んだ。

 透明な液体で満たされたその瓶の中には目玉が入っていたからだ。ピンポン玉ぐらいの大きさのギョロリとした眼球。瓶の中に液体と共に入っているそれは、大きさからして間違いなく人間のものだった。

 よくよく見ると瓶には白いラベルが貼ってあり、そこに日付、性別、大まかな年齢が記載されていた。きっと瓶詰めにされた年月日と、それぞれの中に入っている目玉の持ち主の情報なのだろう。

 その後、私は眼球が入った瓶が詰められた箱を元のようにベッドの下へと戻した。そして彼に眼球詰めの瓶について問い詰めることも、距離を置くこともしないまま、今まで通り付き合い続けた。

 他にもたくさんの眼球を採取して保管しているであろうことは、彼の行動と言動を注意深く観察していくうちにわかった。

 彼が決して入れてくれない、常に鍵が掛かった部屋があった。どのくらいあるのかはわからないけれど、きっとその部屋の中にもっとたくさんの眼球が保管されているはずだった。そこにある目が保管用、そして彼の寝室でもある部屋に置いてあった箱の中に入っていたのが観賞用。

 私は彼を愛していた。それに彼もまた確かに私のことを愛してくれていた。いっぱい二人で一緒の時間を楽しく過ごしたし、彼は私のことを抱いてくれた。「目」だけじゃなくて、私自身を見て、触れて、愛してくれた。だから別れて離れるなんてことはできなかった。

 彼にとって私は目だけに価値がある人間なんかじゃない。私にとって彼が特別であるように、彼にとってもまた私は特別なのだと触れ合う度に思えた。









 けれどそれは私の思い上がりだったようだ。

「私の目も、えぐるの?」

 ベッドに押さえつけられたまま、私が静かにそう言うと彼は目を大きく見開いた。私が彼の秘密を知っていることに驚いているようだ。

「君は、僕がしていることを知っていたんだね」

 わずかに声を震わせる彼に、私は頷く。彼はアイスピックの切っ先を私の瞳へと向けたままだった。

 結局、彼は私自身よりも私の「目」が大切だったのだ。私なんかよりも「目」を愛しているのだ。私自身よりも私の目が欲しいのだ。

 私は瞬き一つせずにまっすぐ自分に向けられたアイスピックの切っ先と、彼の顔を見つめた。最後にできる限り彼の姿を目に焼き付けておきたかった。

 相変わらずの無表情。けれどわずかに下がった目尻、引き結ばれた唇は悲しげだった。しかし、その視線は私の目へじっと注がれていた。

 彼は右手に持ったアイスピックを振り上げ、私めがけて突き下ろした。









END.

・あとがき

この作品は時空モノガタリというサイト様での募集コンテストテーマ「無慈悲な人」へ投稿させてもらった作品に加筆修正をしたものです。

あちらではどうしても一文削らなければならず(改行一字下げ含めて二千字以内でしたので)、こちらが完全版だったりします。


何気に過去に書いた「瞳愛者の平等性」の彼女目線バージョンだったりします。

「瞳愛者の平等性」の方は彼目線ですので、気になる方はぜひ。


短いですが、ここまで呼んで下さりありがとうございました。

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