30:魔王様とお客様 フォルカーの苦悩編
それから勇者どもは、三日ほど滞在して魔王城を発ちました。
勇者と魔王。
本来であれば相反する存在が、信じがたいことに同じ食卓につき、あまつさえ世間話に花を咲かせる始末。前代未聞を通り越して、もはやこれは夢であると。そう思いたい心境を、どうぞお察しください。
「いや~楽しかった!ね?フォルカー?」
「それはようございました・・・(ぐったり)」
「あのふたりも楽しんでくれたみたいだし!料理も評判よかったし!」
「確かに、魔王様がお作りになったものは、どれもとても美味しゅうございました」
とくに、私は"ぱすた"が好きです。
そうお伝えしたら、魔王様はそれはそれは嬉しそうに微笑まれました。
―――ああ、まったく。
私は、このお方のこの笑顔に弱いのだと。
まだ数ヶ月しかお仕えしていないのに、魔王様への己の心酔ぶりに驚きを隠せません。
「・・・勇者どもと仲良くなさることに関しては、もはや何も申しません。ですが、御身が我らの主であることを、どうぞお忘れなく」
つまり、どれだけ魔王様が平和主義であろうと、世間的には魔王様は魔王であり、そして勇者は人間なのです。
相容れない存在。
それが、人間にも魔物にも、深く根付いている"事実"なのです。
「まあ確かに、私はみんなの魔王様だけど・・・向こうの世界では、ごくごくフツウの、ただの学生だったんだよ。"みんなで楽しく!バカみたいに笑って生きる!"がモットーだったんだよ」
「こちらと向こうでは、状況が違います」
「状況は違うけど、いまさら生き方は変えられないからなー」
「・・・私は、ただ心配なのです。親しげに近づいて、魔王様のお命を狙う輩が現れるのではないか、と」
「だいじょーぶ。だいじょーぶ。私は能天気だけど、愚鈍ではないと自負してるよ」
まあ見ててよ、と。魔王様は得意げに胸を張って。
「何があろうと、私は私の生き方を貫いてやる」
どうやら私の苦悩は、これから先、まだまだ続くようでございます。