22:フォルカーと魔王様
まったくもって、信じ難いことでございます。
こともあろうに勇者どもを生かしておくなど!まして、無事に人間の国へ送り届けろと仰るか!!
私には、魔王様のお考えが理解できません。長きに渡り対立してきた人間と仲良くせよと・・・そう仰せになる、あの方のお考えが。
「機嫌直してよ、フォル」
玉座で膝を抱えてお座りになる魔王様は、眉尻を下げて「フォルー」と、寂しそうに私の名をお呼びになった。
いつも通りでございますと告げたら、「いつもより素っ気無い」と仰って、あらゆる者の心の内を見透かしてしまいそうな、あの曇り無き漆黒の双瞳に私をお写しになられました。
「そんなに、人間がキライ?」
「当然でございます。無抵抗の私の部下を、どれほど殺されましたか。残虐という言葉は、人間にこそ相応しい。そう思われませんか?」
「・・・そうだね。ときに人は、酷いことするからね」
そう仰って、魔王様はますます寂しそうに微笑まれました。
「でも優しいよ。人も。毎日美味しいお菓子ときれいな花をくれた、フォルのように」
小さなお体をさらに小さくさせて、魔王様は玉座の上でカスミソウの様に控えめに微笑まれました。
「・・・あの頃は、まだ魔王様がこちらに慣れてらっしゃらなかったので、少しでもお慰みになればと」
「うん。嬉しかったよ」
「光栄でございます」
「うん。だから、人の良いところも探してみて」
「・・・魔王様。前後の会話が噛み合っていませんが?」
「うん。私も、何が言いたいのかよくわからなくなってきた」
へらっと頬を緩ませて、魔王様は玉座からお降りになりました。
「気が向いたら、やってみて。良いとこ探し」
「気が向いたらで、ございますか」
「うん。―――ねえフォル。今日はこれから、中断していたお城探検しよ?」
勇者一行が攻め込んできたからすっかり忘れていましたが、そういえば魔王様にお城のご案内をする予定でございました。
「そうですね。それでは、ご案内致しましょう」
「よろすくー」
屈託無く笑うそのお姿に、本当によくお笑いになる方だと、こちらも自然と笑みが零れます。
恐怖で支配なさっていた先代様とは大違いだ。
「アヒルー♪隊長ー♪」
「まだそのネタを引っ張るおつもりですか!カーッ!」
「ぶはっ!」
私は、いまだ貴方様のお考えには賛同しかねますが。
貴方様の春の日差しのようなあたたかな笑顔が、人と争うことで曇ってしまうくらいなら・・・
それなら私は、貴方様の仰る"人の良いところ"を探すよう、善処しましょう。
何だかんだで魔王様大好きの、ツンデレ。
とっても強い魔物なのに、魔王様が来てから威厳がなくなってきたようです。