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分かたれた世界のおはなし

「Tale of the Dragon」シリーズ 設定の核的な短編。

「おばあちゃん、昔は今よりずっとたくさん魔物がいたって本当? 誰もが魔法使いだったって本当? 僕も魔法使いになりたいなあ! そして龍に乗って空を飛ぶんだ!」


 村の学校から帰るなり鞄を投げ出し息せき切って飛びつく孫を、糸紡ぎの手を休めた老婆は目を細めて見やった。

「ああ、そうだとも。昔はもっと世界に魔法が満ちていたんだよ。

 なんてたって、龍神さまはずっと我々の世界と近しかったからね」

「竜神さま!」 子どもは真っ青な双眸を輝かせた。「なんて素敵なんだろう」

 しかしややあって彼は首を傾いだ。

「おばあちゃん! 龍神さまって本当にいるの? 隣の子がそんなのおとぎばなしだと言っていたよ」

 老婆は小さく首を振ると苦笑いを零した。

「そんな罰当たりなこと言ってはいかんよ。お伽噺なんかじゃあないさ。

 私のひいばあちゃんが言っていたね。水龍神さまの聖地に巡礼に行ったら運よくその姿を見れたって」

「おばあちゃんは見たことないの?」

 老婆は節くれだった指で再び糸を縒りはじめた。「ないね。できれば一度は拝みたいけどね」

「その昔は今より魔法も強かったし、私のお母さん―― あんたのひいばあさんの代までは魔法使いだったさ。もっともっと人と魔法の世界は近かったんだ」

「魔法が弱くなって龍神さまはいなくなっちゃったの?」

「もちろん今だって龍神さまはどこかにいらっしゃるさ。ただ、我々人間の近くにいらっしゃらないだけで」

 ふうん、と生返事をした少年はこてんと老婆の足元に座り込んだ。

 少年が生まれる前までは呪いを売っていたという祖母も今ではすっかりただの老人だ。

「どうして父さんからは魔力がなくなったの? 今は魔法使いなんていないんでしょう?」

 かつてはささやかながらも魔法使いを生業としていた家であったが、代を重ねるごとに力は衰え、ただの呪い師として生計を立てた老婆の息子の代からは別の職業へと変わった。少年の両親は薬屋を営んでいる。

 しかしこれはこの大陸にあって、特に珍しいことでもなかった。

 近所の魚屋でさえ系図を遡れば、遠い昔は街で名の知れた一流の魔法使いの血筋だったというのだから。


「この街にいないってだけで、いるにはいるさ。都に行けば魔法使いの養成学校があるよ。

 でもそれでも。昔よりずっと減ってはいる。それにはね、呪いが関係しているんだよ」

「呪い?」 少年は首を伸ばした。「呪いって?」

 青い瞳が期待に大きくなる。

 老婆は一息ついて窓の外に目を向けると、「そう、呪いさ」と、低く囁いた。


「ずっとずっと昔、本当に昔の昔、創造神さまがお告げなさった呪いがね――」


 人間の時代が始まるより遥か昔

 創造神ゲイヤは世界を生んだ

 光と闇にこれを分け 対の(かみ)に命を吹き込んだ

 光はウルフェ 闇はネルド

 二つは一つ 共に交わり四人の子どもを生み出した


 風はウェルデラ 陽気で気まぐれな光の龍

 土はグラニドラス 頑固で無口な闇の龍

 炎のファイエル 強気で我儘な光の龍

 水にエルディアナス 穏やかで真面目な闇の龍


 ゲイヤの祝福身に受けて、家族は世界を作り出す

 長い長い時をかけ 豊かな世界を育んだ

 それでもずっとうまくはゆかなかった


 はじめは仲良くしていたが、あるとき仲違いをはじめた四兄弟

 炎のファイエルは支配権求めて兄弟を虐げだし

 風は逃れ、土は隠れ、水が対抗し立ち上がる

 闘うこと四十日四十夜

 劣勢になった水を見て、逃げた風が舞い戻る

 水に与した風により 嵐は一層酷くなり

 大火事、大風、大洪水

 ついには怒った土の大地震

 荒ぶる神々にいきものたちは脅かされ、世界は崩壊しはじめたのだ


 これを見た両親、ウルフェとネルド

 創造神ゲイヤに助けを求めた

 するとゲイヤは光と闇に命じ 世界を二つに分けてしまう

 世界の表側へいきもの集め

 裏側へ四兄弟をおしやった


 表は光と闇が統べる世界

 裏は四兄弟の荒らした世界

 東と西の海の境、光と闇は鍵をかけ 誰をも通さぬようにした

 あちら側はウルネルド

 四兄弟の世界はフェンデルド


 こうして世界は分かたれた


 フェンデルドは四つ柱の龍が治める世界 四龍神の護る世界となった

 ゲイヤは罰を与えて彼らの寿命を千年とし

 その終わりに灰とすよう命じた

 灰から新たに生まれて代替わり 記憶のみを継承して務めに専念するように、と 

 それでも記憶に縛られ いがみあう龍神たち

 時折闘いをはじめては、世界に災いもたらしてきたのである


 これに対しゲイヤは再び身を起こし 四龍神に呪いをかけた

 いついつまでも憎しみ合いを続けるならば やがて時が満了したその時に

 汝ら世界に吸収され 永遠に消滅せん、と

 これを聞いたウルフェとネルドは嘆きの唄奏で 子らへ呪いの歌おくる

 光と闇は世界の境で柱となり

 子らが(まこと)の務めに目を向けるその時まで

 覚めぬ眠りにつくだろう


 それでも()し愚かな龍たちは互いに憎み敵対し

 歩み寄ることなどないままに 千代の時が過ぎ

 表のウルネルドには神が失せ 裏のフェンデルドはゲイヤの呪いが漸進(ぜんしん)

 やがて神々は少しずつその力を失いはじめ 世界に満ちていた魔法はそれと共に衰退していったのだとさ


 

 これが今我々が住まう世界なのだよ、と老女は少年に語った。

「呪いによると、龍神さまはいなくなっちゃうの?」

「伝説によるとそうだね。でもあたしはただの作り話じゃないと思ってるよ。現に魔法は減り続けているし、竜神様もとんと姿をお見せにならなくなった。

 今はそんな話ないけどね、500年前まではまだ龍神さまも荒ぶる神だったんだよ」

「知ってるよ! 火の神さまが世界で大暴れしたんでしょう? それを伝説の勇者が倒したんだ!」

 興奮に目を輝かせた少年に老婆はくすくすと笑った。

「そうさ。あんたには何度も聞かせてやったね。火龍神を封じた大剣士リュークウェッドの伝説さ。ずっと東南の砂漠の国へ行けば封印された火の神さまを見れるって話だよ」

「火龍神さまは死んでるの?」

「龍神さまは不死身だよ。でも呪いでいつか死んでしまうのかもしれない。それでもまだ世界に魔法使いが残っているうちは、龍神さまも生きていらっしゃる。魔法使いの力っていうのは龍神さまが源だからね。それにほら、半龍の一族だってまだ絶えてないだろう」

 少年は思い出したように叫んだ。

「海の向こうのマリアーノ人だよね! 僕のご先祖さまにもいたんでしょ?」

 老婆は頷いて少年の頭を撫でた。

「ああそうさ。生粋の半龍の人たちよりは綺麗じゃないが、あんたの目の色は貴重なしるしなんだよ」

 そう告げる老婆の濁った両眼も海の青の名残があった。


「他にも南のシルワノに、北はウィンデル、東にアスルダナがいる。あれは今もまだ太古の力を受け継ぐ人々。古い種族なんだよ」


 龍の血を身に受ける者はその瞳に証を宿す―― 

 水は青(マリアーノ)なら風は紫(ウィンデル)

 火の赤(シルワノ)土の金(アスルダナ)


「いいなあ…かっこいいなあ…」

「そんなにいいもんでもないさ。お前やあたしたちはだいぶ血が薄れてるから普通だけどね、あの人たちは珍しい姿をしていることがほとんどだって言うんで、人買いに攫われたり…。

 中立とは言われてるけどね、その不思議な力のせいで実際は隣り合う国々からつけ狙われているんだよ。…このフェンデルドに魔法は消えつつある今はなおさら、物珍しくなってくるからね」

「そんなの! 誰か守ってあげないの?」

「人間てのは自分と違う生き物に厳しいんだよ。あの人たちは自分たちで自身を守るしかない」

 龍神さまが守ってくれた時代はもう過ぎ去って久しい、と老婆は首を振る。


「でもそれもいつかは消えうせるもんなんだろう。伝説の通り、仕方ないさね。

 竜神さまたちは仲たがいを続けたままなのさ。どうしても風と土、火と水は相反しあう関係だからね」


 きっと龍神さまたちも分かっておいでなのさ。今が、黄昏の時代だということを――

 



老婆が語る神話。オチはないです。←

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