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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

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空言とリアル

作者: 花月アイコ
掲載日:2026/04/01

「リル……あなたのことが、嫌いだったの。アタシのこの気持ち……もちろん受け取ってくれるよね?」


 ハァ……

 風と一緒に耳障りな言葉が入ってきた。耳鳴りはいつもするのだが、やけに今日は激しいようだ。


 私と幼稚園のときから付き合いのあるソラに、先日卒業した母校の屋上へいきなり呼び出されたと思ったら告白された。しかも、嫌いだと。


 幼馴染といえば聞こえはいいのかもしれないが、実際のところは顔を合わせるたびに、私だけに罵詈雑言を浴びせられて思うことしかない。

 

 ダサい、消えて、近寄らないで、あなたの体臭が強烈、聞こえかたがズレている、心が曲がっているから字も曲がっていますわよ, etc.


 おおよそ人に投げかけてはいけない言葉ばかり。ソラの精神性は人と違っているのだろうか。そうじゃないと説明がつかないほどに、口が悪すぎている。


「えっと……ね、今ソラが言ったこと、ちょっと聞こえなかったから……もう一度お願いできる?」


 どうか聞き間違いでありますように。


 ソラとは幼稚園から高校まで一緒で、別々の大学に進学してようやく離れることできた。二人とも大学が県内で比較的近いとはいえ、もう私のことはほっといてくれ。


「リルのことが嫌いだったの!」

「うん、知ってた」


 なにが悲しくて、嫌いだという告白を受けなきゃならんのか。しかも、明日は大学の入学式で準備することがいっぱいあるのに。


 ソラにこれ以上付き合っていられない。帰ろうと思い、屋上の出入り口のドアノブに手をかける。


「ハァ……ソラ、服から手を離してくれる? そんなに服を強く掴むとシワができちゃうよ」


 ソラは私を逃してくれないようだ。

 嫌いだ……という、周知な事実を告白したのに、他になにがある。家に帰してくれ。


 いや、せっかく母校にきたから、後輩達にあいさつでもしようかな。高校も春休み中らしいけど、部室に電気が付いていたし。うん、これは面倒くさいOG仕草。


「ん……」

「なぁに、ちゃんと言葉にしないとソラの伝えたい意味が分からんのよ」


 他の人にはちゃんとしているのになぁ……なんで、私のときだけ辛辣になるんだか。しかも、他の人はソラを注意してくれないし。


 暴力や物を隠されたりと、物理的に危害を加えられているわけでないため、イジメとして訴えることにもいささか弱く感じでしまう。


 言葉だけでも、私が嫌だと感じたら充分にイジメとしてなりうるのにね。


「えっと……どうすれば……リルに…………そうだっ!」


 一人で変顔して、ソラはなにかを思いついたのかスマホを取り出して文字を打つ。目の前に私がいるのだから、スマホなんか使わず直接私へ話せばいいのに。


 文字を入力し終えたソラが、私に文を見せてくる。


「は?」


 書かれた文に目を疑ってしまった。私の今までの常識が地割れのような耳鳴りで覆るぐらいに。


『リルのことが好き。信じて』


 呆然と固まる私を見たソラは、続けざまに文字を打って私に見せる。


『今までリルへどんな言葉も正確な意味で届いていなかったのだと思う。いくらホメても、リルは険しい顔つきをしていただもの』

「ウソでしょ。あんなにも、私のことを悪く言っていたのに、そんな言葉を信じてもらえるとも?」

 

 ソラのせいで、私のメンタルは日々削られていた。そりゃ、毎日悪口を言われたら嫌いになる。


 ……でも、ソラの表情はどうだったかしら。

 …………悪意をぶつけるような表情?

 …………それ以外に、なにかされた記憶はあったか?


『リルがどんな言葉で聞こえていたのかは分からない。もしかして、酷い言葉として聞こえていたのなら、何度でも謝ります。お願い、それも含めてアタシとお話して』

「嫌よ。私もお願いだから帰らせて! ソラと一緒だと頭がおかしくなりそうになる」


 今までの常識がくずれ、足元が不安定になった。比喩抜きで屋上から落ちそうになるほど、耳鳴りが止まらない。


 今度こそドアノブを開けようとする私に、ソラはしがみついて阻止しようとする。


「どいてよ! もうソラとはたくさんなの」


 ――――嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、キライ、キライ、キライ、キライ


 頭の中に響くは、拒絶の台風。

 ソラの口の動きと聞こえてくる声。一致していないのが、分かるはずなのに直視したくない。


「「あっ」」


 むしゃくしゃになった私達は、体勢を崩し、同時に床へダイブ。勢いのあまり私は、空を見上げ、両手両足を広げた大の字に。


 すかさずソラが私の腹に股がる。俗にいうマウントポジション。あぁ……殴られ、ボコボコにされ、屋上から捨てられるんだ…………


 全て悟った私は気絶するように目を瞑る。


 ――おでこに、不思議な感触を感じた。


 当然殴られると思っていたので、慌てて目を開ける。

 ……すると、ソラの顔が間近にあった。おでことおでこを合わせていたのだ。


「リル落ち着いて、アタシの声をちゃんと聞いて」


 上手く頭が回らないせいか、口を開けることができない。おでこを合わせられているせいで首を動かしづらいが、軽く二回頷いて応える。


「アタシはリルのことが好き。告白の返事はもういいの。アタシの言葉は、リル……あなたに届いた?」


 耳を通さずに、おでこを直接つたって私にソラの言葉が届く。


 ……ソラって、こんな声をしていたんだ。




「どうして今告白したの?」

「だって……高校を卒業したのに、アタシに連絡が一切こなくて、うすうす私のことを嫌がっていたの分かっていたけど、本当に離れてしまいそうで嫌だったの」


 つい最近まで過ごしていた校舎の屋上で、私達はおでこを突き合わせ語り合う。この瞬間だけは耳鳴りが止んでくれていた。


「まぁ初めて会ったときから嫌いだったね。口を開けば、私の悪口しか言わないもの」

「ごめん……」


 たぶん、ソラが謝ることはないはずなのに謝ってくれる。他の人が、ソラの言葉へ疑問を持っていなかった。だから、問題があったとするのなら私のほうだろうね。


 自分自身が悪いとは思っていないが、もったいないとは思ってしまう。だって、私に届く声が清らかで美しい。


 今までの学校生活が不快にしか思えなかったのになぁ。一緒の大学に進学できていないのが、残念に思えてならない。


「そういえば、付き合ったらなにをしたいの?」

「えっ!? どうしたの急に」


 ソラが驚いた拍子におでこを離してしまう。すると、耳鳴りが……


 もう一度、私のほうからおでこをくっつけた。耳鳴りは止み、恥ずかしそうに目を背けたソラが見える。


「いきなり告白したのはソラでしょ……」

「えっと……人並みにカップルぽいことをして、この先を……一緒に暮らしたい、かなって。リルにとっては気持ち悪いよね。ずっと、悪口が聞こえていたんでしょ?」


 ふむ。大学は別々になるけど、一緒に暮らすことは考えてくれているんだ。まぁ、大学も県内同士だし、誤解も晴れたし……なによりも…………


「ソラ目を瞑って」

「え、なに?」

「はやく」

「う、うん……」


 ソラが目を瞑ったのを確認して私も目を瞑る。

 私のことを悪口言っていた唇に、愛おしいと思う日がくるなんてね。


 ――チュッ


 唇を合わせるのも、おでこを合わせることができたからか、初めてなのに上出来。


「リ……リル、今……キ、キスを――」

「よろしくねソラ」


 耳に入る誤魔化しより、目の前のあなたを信じてみたい。

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