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夜明けの魔法  作者: アル・パカ


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第六話 夜警

「なるほど。」


 巨大な黒翼をはためかせ、無数の大剣と共に空を舞うかつての弟子の姿に彼女はそう漏らす。頬を伝う血を指先で拭い、相対する存在を静かにただ見据える。


「宗一もアリスも本気って訳か。」

「だったら私も、同じ魔法使いとして全霊で相手をしなきゃだね。」


 視線の先にいる彼を、彼女は本気を出すべき相手として認めた。

 彼女から漏れ出ていた「夜」が消え、次の瞬間には戦場たる空間全体を満たす。


「行くよ。」


 遍在する彼女の魔力が一つの意志の下流れ出す。夜の奔流があらゆる方向から彼を襲う。

 彼は魔力探知を怠らず、冷静に、自身に届きうる攻撃のみを見極める。受け流すべき攻撃を選択し、最低限のリソースで防御を行う。

 

 翼を大きく開き彼は空を駆けた。彼女の全開の攻撃がその姿を追うも、周囲を飛ぶ大剣により阻まれる。

 飛翔によりさらに広い範囲に羽が舞う。白い雪と黒い羽が混じり合う空を、二人の魔法使いだけが自由に飛び、互いの全力を体現する。

 

 激しい魔法の衝突。閃光が周囲を照らし、轟音が山々に響き、衝撃波が大地を揺らす。一進一退の攻防の中、ソフィの口角は自然と少しばかり上がっていた。

 最愛の弟子の全力。本気を出さざるを得ない相手。数百年ぶりの全力の魔法戦。

 極限の集中に沈むこの瞬間だけは、背負った業も責任も、鉛のように重く纏わりついて来た全てが少しだけ軽くなる。彼女は一人の魔法使いとして純粋な魔法のぶつけ合いを、師として弟子の成長を味わっていた。

 

 魔力は主を映す鏡のように、精神状態によりその様子を変える。

 気分のムラによっては実力を出し切ることは叶わず、逆に確たる意思の下では、ほんの些細なきっかけがいとも容易く遥か高みへと導くこともある。

 

「四年前、俺は貴方が消えたことを呑み込めなかったんだ。」


 最中、彼はそう零した。あまりに小さなそれは、すぐに魔法の衝突音の中に消える。

 

「今だってそうさ。全力で戦いあってもまだ、俺は貴方と暮らした日々の続きを空想してる。」

「でも全力だからこそ、貴方の内にある思いも少しは分かった。だから今は――」


 彼女は異変に気が付いた。彼女の全力は、確かに彼を上回っていた。そのはずだった。事実、それまでの撃ち合いでは拮抗しているように見えて少しずつ彼女が押していた。

 しかしそのバランスがここに来て変わった。彼の出力が徐々に上がる。彼が全力で無かった訳ではないだろう。だが戦況は確実に押し戻され、今は完全に五分となる。


「『(ヤリ)』」


 無数の大剣から一転して、複数の羽が一つに集まって数本の巨大な槍を形成する。

 彼女は初め、それまでの『剣』と同様に魔力をぶつけ攻撃自体をかき消すことを考えていた。しかし上昇した出力を相殺することはできず、咄嗟に回避に舵を切るも更なる手傷を負う。

 

 傷や痛みを気にする素振りすらなく、彼女も次なる一手への溜めを行う。上がりつつある彼の出力を更に上から押し潰すべく、周囲の魔力を一点に集約させる。

 

 放たれた一撃はこれまでのどれよりも強く空を切り裂き突き進んだ。数瞬後には自身へと到達するその攻撃を、迎え撃つために静かに見据える。


「『八咫烏(ヤタガラス)』」


 空間に散るすべての羽が一つになり、一羽の烏を形づくる。主のように、黒い翼をはためかせると向かってくる攻撃へと飛び立つ。

 圧倒的な出力、高密度の魔力の衝突により大きな爆発が起こる。再び粉塵により視界が塞がれる中、彼女は決着をつけるために再び攻撃準備を行う。


「魔力がそこら中に……魔力探知がほぼ機能しない……!」


 爆発により、彼と彼女の魔力が空間全体に散ったため、彼本体を精密に探し出すことが不可能となる。彼女の探知では、彼が高速で周囲を飛び回っていることしかわからなかった。

 

「でも羽はもうない……終わらせる。」

「私は、やり遂げる……!!」


 超高速の動きに翻弄されることなく、彼が最接近した瞬間に、寸分の互いなく攻撃を放った。


『だから今は、俺は師匠の事をもっと知りたいよ。そして、俺の思いも知ってほしい』


 彼女の攻撃によりその先の粉塵が晴れるも、そこに在ったのは彼ではなく彼の外套を纏った人形。

 彼女が状況を察知し驚くのよりも少し速く、背後から彼が現れる。


「魔力の固形化、アリスさんに教えてもらった魔法だ。」


『静謐なる闇、揺らめく灯。佇む月の下星影を守る。我は世を覆う夜を祓い、夜明けを齎すと誓おう』


 古代語での詠唱を済ませた彼の掌から魔力が放出される。特定の形をとらず流動する魔力は、彼女の脇腹を穿った。


「そしてこれは、貴方に教わった……大切な魔法。」

「ずっと固形化で戦ってたから意識してなかっただろ。でも俺にとってはずっと、こっちが奥の手だ。」

「小細工も強いが……こうして純粋な速さと威力に振ったものが結局一番良いんだって。いつか貴方が教えてくれた事だ。」

「師匠、これで俺達の勝ちだ。」


 猛攻による全身の怪我、全力で戦ったことによる消耗。既に息も絶え絶えだった彼は、言い終わると同時に糸が切れたように意識を手放しその場に倒れた。

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