プロローグ
こういう小説を書くのは初めてです。脳内の妄想を垂れ流します。全9話を毎日投稿します。
いつも通り深域の処理に赴いた先で、私の友人、ソフィは一人の少年に出会ったらしい。
深域は一言で言うなら災害だ。魔力濃度が閾値を超えた空間。その中では適性のない者は心身に異常をきたしやがて死に至る。しかしその少年に侵食は見られず、多少の怪我こそあれど自分の足で立っていた。つまるところ、彼には魔力への適性があった。
ただし、彼が正常であったというわけではない。彼は茫然と立ちすくみ、目の前に転がる男女、彼の両親の死体を見つめていた。
その男女はこの国ではあまり見ない日本人で、魔力を悪用した犯罪を稼業としていたらしい。大方、他の組織から恨みを買って深域に逃げ込んだものの、そこで魔物に襲われて死んだのだろうと、よくある話をソフィは言っていた。
「私と一緒に来る?」
ソフィは少年を連れ帰った。これは驚くべきことだった。彼女が弟子をとったこと私はこの事を彼女に指摘したのだが、
「だって可哀そうだったもん。それに、この子には光る物がある気がしたんだよね~。」
可哀想なのも本当だろうが、本音は後者だろう。彼女に師事した子は、彼女に「光るもの」を見出されていた。彼女は眩い輝きが好きなのだと、いつか一緒に夜景を見に行った時に言っていた。
彼女の言葉を借りるなら、少年は一際「眩しかった」。
少年は自分から教わったことをすぐに飲み込むんだと、ソフィは私に会う度に自慢げに語っていた。しかしその魔力への才能もさることながら、一番の話題は彼との普段の暮らしだった。
「あの子ね、名前を教えてくれたの。しかも自分から!松本宗一って名前なんだって。」
「アリス!いるー?」
「うーん何よこんな真昼間から……」
「さっき宗一が私のこと師匠って呼んでくれたの!!!」
「そう……よかったわね。てか私の図書館で騒がないでよ。」
「宗一がご飯作ってくれた!いつも魔法を教えてくれるお礼だって。」
「へえ、良い子じゃない。隣に浮いてるそれはもしかして。」
「作ってくれたチャーハンって料理よ、言っとくけど一口もあげないからね。」
「じゃあなんで持ってきたの……ココ、飲食禁止なんだけど。」
思い出しただけで笑えてくる。彼女は親馬鹿、いやこの場合は師匠馬鹿というべきだろうか。とにかく、その筋の素質があった。彼の成長なんかを逐一報告してくるのだ。私が何をしているかなどお構いなしに、嵐のようにやってきては語るだけ語ってすぐに帰っていく。おかげで私まで彼の様子に詳しくなってしまった。
「これが深域だよ。」
この日、ソフィは彼に初めて深域での修行を行っていた。
「なんというか、冷たい?空気が重い感じもする。」
「魔力が普通よりも濃いからね。一般人には致死性の毒だし。」
「……!師匠前、俺たちに何かが近づいてきてる。」
「魔物だよ。深域内に出てくる異形の怪物。集まった魔力が結晶化したみたいなモノだと思えばいい。見たことはあるでしょ?」
「このサイズなら深域の核レベルだね。倒せば深域も形を維持できなくなって消滅するよ。」
「そーだ宗一、今日は『体験』のつもりだったけど、『実戦』にしよ!」
「つまり?」
「アイツ倒してみてよ。」
「……は?」
瞬間、わずかな時間で距離を詰めてくる魔物。大きく振るわれた腕をスレスレで躱した彼は、数メートルの上空に浮かぶ自らの師に困惑の目線を向ける。その困惑は、突然初めての実戦に放り込まれたことに対してか、あるいは自分が何とか攻撃を回避したその一瞬で既に移動していることへか。もしくはその両方が理由かもしれない。
「倒すってどうやって!」
魔物の猛攻を必死に凌ぎつつ、その様子を空から楽しそうに見下ろす師匠に声を上げる。
「教えたじゃん。ホラ、魔力をぶっ放すヤツ。」
確かに教わった。だが普段の的と、本気で自分の命を奪いに来る怪物とでは全く違う。しかし妙な安心感もあった。少なくとも彼女は、「最高峰」と称される天才魔女は弟子の実力を疑っていない。ならばやるべきことは一つだった。敬愛する師の期待にきちんと応える。
「溜めて……撃つ。」
教わったことを振り返り、その過程を丁寧に再生する。魔力を手のひらへと流動的に動かし、十分な圧力を加え解放する。撃ち出された彼の魔力は魔物の胸を一息に貫く。黒い奔流が心臓まで到達し、致命傷となる。程なくして魔物は魔力の粒子となって消滅した。
「さっすが私の弟子ね!」
深域が消滅し周囲の空気が温度を取り戻すことを、彼はより暖かな師匠の腕の中で感じ取っていた。ワシワシと頭を撫でられることに一抹の恥ずかしさを覚えつつも、期待に応えられたことを純粋に喜んだ。
黒い魔力。
彼の魔法、その属性は「闇」だった。師であるソフィの「夜」に似たのか似ていないのかは分からない。ソフィは「私の弟子だもん!」と言っていたから、似てる派なんだろう。
彼女は事あるごとに宗一君を「私の弟子」という言葉で形容した。そこには自分のことを健気に慕う弟子への愛情や、その才能と実力への誇りがひしひしと感じ取れた。勿論その他にも様々な感情が混ざっていただろうが、とにかく、彼女は宗一君を大切にしていた。
それだけに、彼女が突然、彼を置いて、誰にも――私にすら何も告げずに居なくなった事は大きな衝撃を与えた。そして、後に起こる一連の事件の黒幕が彼女であったことも。




