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第十九章 静かな側



川路は、変化を数で見る癖があった。


文の枚数。

戻りの速さ。

差し戻しの回数。


最近、差し戻しが減っている。


それ自体は、悪いことではない。

だが、減り方が滑らかすぎる。


川路は、ある日の返書を二つ並べた。

三月前のもの。

昨日のもの。


文の長さはほとんど同じ。

語調も変わらない。


違うのは、

断りの余地だった。


以前は、どこかに逃げ道がある。

今は、逃げ道が最初から整理されている。


整えすぎている。


川路は、埋木舎を訪れた。


用向きは、表向きの確認だ。

だが本当は、目を見るためだった。


直弼は、いつもと同じように迎えた。

声も姿勢も変わらない。


ただ、返事の間が、わずかに伸びている。


「先日の件、滞りなく」


川路はそう言い、文を差し出す。


直弼は受け取り、目を通す。

一瞬、視線が止まった。


それは迷いではない。

計算の間だ。


川路は、それを見逃さなかった。


「整いましたな」


静かに言う。


直弼は、頷く。


「整いました」


その声に、力はある。

だが、かつての即答の鋭さではない。


川路は、責めない。

助言もしない。


代わりに、こう言った。


「整いすぎると、動きが読まれます」


直弼は、わずかに目を上げた。


それ以上は続けない。

言えば、対策の話になる。

対策は、いまは要らない。


川路は、文を畳む。


「持てる形になっております」


それは評価ではない。

確認だ。


直弼は、少しだけ息を吐いた。


「持てるうちは」


川路は、それを否定しなかった。


帰り際、庭に目をやる。


足跡がない。

踏まれているはずなのに、跡が残らない。


固い。


川路は、振り返らずに言った。


「削れるのは、外ではなく内です」


直弼は、答えない。


だが、その沈黙は、拒絶ではなかった。


川路は、それで十分だった。


支えるとは、

手を貸すことではない。


削れ始めたことを、知っている者がいるという事実を、

置いていくことだ。


夜風が、枝を揺らす。


直弼は、一人ではなかった。


だが、

選ぶのは、やはり一人だった。

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