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竜王の番に選ばれて  作者: はるさんた


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第8話 もう一度


翌朝。

湖畔に面した白い離宮の一室で、リリアは目を覚ました。

窓から差し込む朝の光が、やわらかく頬を照らす。

けれど彼女の表情は晴れなかった。


「……また、助けられてしまった」

掌を見つめると、昨日の光の余韻がまだ微かに残っている。

あのとき、恐怖よりも――悔しさが勝っていた。


扉の外から、控えめなノックの音。

「リリア様、朝食のご用意ができております」

セリナの声だ。

栗色ではなく、陽の光を受けて淡い藤色に輝く髪をゆるくまとめ、優しい瞳でリリアを見つめる。


「ありがとう、セリナ。でも……今は、あまり食欲がなくて」

「昨日のことを気にされているのですね」

リリアは黙って頷いた。


少しして、ユウとセリオンも部屋の外から顔を出した。

「王はずっと側にいましたよ。リリアさんが目を覚ますまで一晩中」

セリオンがため息をつく。

「久々にあんな顔を見た。あの方があれほど動揺するとは……」


セリナが静かに微笑む。

「それほどに、リリア様は特別なのでしょう」


リリアは俯いたまま、胸の奥に小さな決意を宿した。

「……もう一度、試練を受けたいの」


三人が一瞬、息を呑む。


「昨日の精霊は、私を拒んだ。でも……私の中の光が、それを恐れてた。

 次は、ちゃんと向き合いたい。アシュレイン様に守られるだけじゃなくて、

 私も……アシュレイン様を守りたいの」


その言葉に、ユウは優しく笑った。

「まったく、王の番は肝が据わってるな」

セリナは深く一礼した。

「では、王にお伝えいたします」


* * *


広い謁見の間。

竜の彫刻に囲まれた空間で、アシュレインは静かに玉座に座していた。

金の髪が陽光を受け、王の威厳を放つ。


「……再び試練を受けたい、だと?」


玉座の前で頭を下げるリリアに、声が落ちる。

彼の金の瞳には、怒りではなく――揺らぎがあった。


「昨日、命を落としかけたのだぞ」

「……分かっています。それでも……私、逃げたくないんです」

リリアの声は震えていたが、真っ直ぐだった。


沈黙が落ちる。

長い金の髪が揺れ、アシュレインはゆっくりと立ち上がった。

その歩みは静かで、しかし一歩ごとに空気が震える。


「……なぜ危険を冒す?」

「アシュレイン様の隣に、立てるようになりたいから」


その言葉に、彼の瞳が大きく揺れた。

金の光が、まるで炎のように煌めく。


「……本当に、怖くないのか」

「怖いです。でも、私の気持ちはそれ以上に強いです」


アシュレインは息を吐き、ほんの少しだけ口元を緩めた。

「……好きにせよ。だが、無茶はするな」


そしてそっと、リリアの頬に手を添える。

「試練を超えられたら……その時は、我の隣で空を翔ぼう」


リリアの瞳が潤む。

「……約束、ですよ」

「我が名にかけて」


* * *


再び、湖の前。

静まり返った水面に、リリアの影が映る。

今度は、恐れではなく決意の光を宿して。


「……お願い。今度こそ、あなたと話したいの」


掌が淡く光り、湖が応えるように波打つ。

精霊の声が、穏やかに響いた。


『ようやく、“自らの力”を見せたな……人の子よ。』


金の光がリリアを包み、髪が風に揺れる。

その姿は、まるで湖に咲く光の花のようだった。

遠くから見守るアシュレインは、静かに目を閉じ、誇らしげに呟く。


「よくやった……我がリリア。」



そのとき――

光の粒が再び集まり、精霊の声が優しく彼女の心に触れた。


『リリア。

 お前の心に、恐れよりも強き光があることを、我は見た。

 この先、もし闇がその光を覆う時が来たなら――

 そのときは、我が力をお前に貸そう。』


リリアははっとして顔を上げた。

目の前の光が柔らかく揺れ、まるで微笑んでいるように見える。


「……ありがとう。約束、ですね?」


『ああ。お前が再びこの湖を訪れる日まで――風と共に在ろう。』


光はひと筋の風となって、静かに空へ溶けていった。

その残響が、リリアの胸に深く刻まれる。


アシュレインがゆっくりと歩み寄り、そっとリリアの肩を抱いた。

「……今のは、精霊か?」

「はい。でも……もう、怖くありません」


リリアの笑顔に、アシュレインは小さく息をつく。

「――やはり、お前は我の誇りだ」


風が再び吹き、湖面に金と銀の光が踊った。

その輝きの中で、リリアはそっと目を閉じる。


精霊の言葉が胸の奥で、静かに息づいていた。


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