表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜王の番に選ばれて  作者: はるさんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/18

第6.5話 竜王の胸に眠る夜


試練の夜。

竜の国の空は、星が近い。

光の粒が降るように瞬き、風には小竜たちの眠る気配が混じっていた。


リリアは広いバルコニーに出て、空を見上げていた。

今日の試練を終えたばかりの身体はまだ少し震えている。

けれど、それは恐怖ではなく、胸の奥の熱のせいだった。


「……アシュレイン様」

ぽつりと呟くと、背後から金の光が揺れた。


「眠れぬか」

静かな声。振り返ると、アシュレインがいた。

月の光を背に立つ彼の髪は、まるで光そのもののように輝いていた。


「……はい。なんだか、まだ夢みたいで」

「夢ではない。おまえは確かにやり遂げた」


そう言って、アシュレインはリリアの肩に外套をかけた。

そのまま彼女の髪に触れる指先が、そっと震えたのをリリアは感じる。


「リリア。おまえが我の手を離れても、風が我の代わりにおまえを包んでいた」

「……アシュレイン様」


その名を呼ぶたび、胸の奥で何かが温かく広がっていく。


「……それでも」

アシュレインは静かに、しかしどこか甘い声音で続けた。

「やはり、おまえはこうして我の腕の中にいるほうが、落ち着く」


言葉の後、彼は迷いなくリリアを抱き上げた。

星の光がふたりを包み込む。


リリアは驚きながらも、もう抵抗はしなかった。

「……また、抱き上げてるんですね」

「ふむ。これは“我が竜王としての務め”だ」

「それ、少しずるいです」


そう言いながらも、リリアの声は笑っていた。

アシュレインもまた、低く柔らかな笑みを漏らす。


「いいのだ。おまえが笑ってくれるなら、我は幾度でも抱こう」


胸元に顔を寄せると、鼓動が静かに響いた。

その音が、不思議と安心を呼ぶ。


遠くでセリナが廊下の影から小さく微笑んでいた。

「……ほんと、あの方はリリア様には甘いんだから」

隣でユウが小声で呟く。

「もうあれ、完全に保護という名の溺愛ですよね」

セリオンは軽く肩を竦め、夜風に銀髪を揺らした。


それでも誰も止めようとはしなかった。

――この国で、竜王の笑みを見たのは何百年ぶりのことだから。


リリアはその胸に身を預けながら、

静かに目を閉じた。


「おやすみなさい、アシュレイン様」

「眠るがよい。我が光よ」


星々が瞬く夜、竜王の腕の中で、

リリアは穏やかに、そして確かに幸せの中で眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ