第10話闇を切り裂く光
薄暗い竜の国。
湖畔を渡る風は冷たく、黒い霧が森の中からじわりと広がっていた。
木々の間で小竜たちが不安げに羽をばたつかせる。
その影に、リリアは静かに立っていた。
「……また、闇が迫っている」
セリナの声が響く。
湖の向こう、塔の影が揺れ、薄い黒い霧が立ち込めた。
アシュレインはすぐにリリアの前に現れ、金色の瞳が鋭く光る。
「リリア!危険が近い――離れろ!」
しかしリリアはその腕を振り払い、一歩前に出た。
「私は、もう守られるだけじゃない!私も戦います!」
掌から放たれる光が、黒い霧に触れる。
微かに霧が薄れ、闇が揺れる。
小竜たちもその光に応じ、羽ばたきながら光を増幅させる。
アシュレインはリリアに少し驚きながらも
翼を大きく広げ、霧と光の間に立つ。
その威厳と力は、竜の国の空気を震わせる。
「我が番……我が光よ、共に立て!」
光と闇がぶつかり合い、湖畔の空に光の輪が生まれた。
闇は徐々に退き、湖の水面に黄金と銀の光が映る。
リリアは息を整え、手のひらに残る微かな光を見つめる。
「……私、できた……!」
アシュレインは静かに彼女を見つめ、優しく笑った。
「……さすが、我がリリア。もう恐れることはない」
今回は、彼女を抱き上げることはなかった。
自力で闇を押し返したリリアの成長を確かめるように、アシュレインはそっと手を添え、肩に軽く触れるだけだった。
セリナ、ユウ、セリオンも静かに見守る。
「リリア様……本当に立派になられましたね」
セリナの瞳は誇りに輝く。
ユウは短く「すげぇ……」と呟き、セリオンも微かに微笑んだ。
湖面に映る二人の影は、ただ静かに黄金の光に包まれていた。
リリアは胸の奥に、確かな自信と決意を刻む。
「次は、もっと……強くなる」
精霊の声が、遠く湖のほとりで微かに響いた。
「その光を、もっと研ぎ澄ませよ――次なる闇に備えて」
竜の国に静かな黄金の時間が流れる中、リリアは新たな覚悟と共に立ち上がった。




