第8話:「読解者(パラリーダー)の迷宮」
構文ネットの深層にある、解釈の迷宮。
俺たちは今、“読解者”が生息する場所へと足を踏み入れていた。
「ここ、構文が逆流してる……!“書かれた通りに読めない”場所だ!」
ミナが焦った声を上げる。
その通り。ここでは、“本来の意味”は通用しない。
どんなに正確に語っても、“読み手”によって真逆にねじ曲げられる。
その頂点に立つのが、読解者──
「すべての言葉は“解釈”される瞬間に、書き手の手を離れる。真意など、受け手の自由意志次第だよ?」
現れたのは、白紙の仮面をかぶった少女の姿。
彼女は、俺の言葉を**“違う意味”で受け取って返してくる**。
「やめてくれ……その構文は、誰かの心を傷つける!」
「あら、“やめて”は命令ですか? 抑圧ですね。暴力的」
「違う、それは警告で──!」
「“違う”と否定しましたね。あなたは多様性を否定する人だ」
──会話が成立しない。
いや、成立してるようで、構文の“文脈接続”が故意に切られている。
「セイ、このままじゃ“発言できないまま沈む”ぞ!」
カイが怒鳴る。
「わかってる……でも、やる。読まれ方がどう歪められようと──“本心”は、貫ける」
俺は構文詠唱を開始した。
「《解釈権は双方にある》《誠意は“読み方”を強制しない》《だが、誤読の悪意には、立ち向かう》!」
読解者の構文が揺れる。
「セイ……それ、“誤解される覚悟の詠唱”だ……!」
カイが叫んだ。
「構わない。言葉は、誤解を恐れて止めるもんじゃない。“誠意”で通せば、届くやつには届く!」
白紙の仮面が落ちた。
読解者は、ただ静かに、言った。
「……私、ずっと“本当の意味”が怖かった。読み違えたら、壊れてしまう気がして」
「じゃあ、一緒に読み直そう」
ミナが差し出した手は、そっと受け取られた。