第77話:「揺らぐ視覚、揺るがぬ言葉」
村人たちの瞳は血走り、俺たちを“悪鬼”として映していた。
誰一人として疑おうとしない。目に映る映像こそが絶対で、言葉など届かない。
「セイ、どうする!? このままじゃオレっちたち、村人全員と戦うことになるぞ!」
カイが剣を振り回し、迫る槍を弾き飛ばす。だが相手は無尽蔵だ。
ミナは苦い顔で、園子を庇いながら叫んだ。
「言葉じゃだめだ……“見たもの”が真実にされちゃってる! ボクたちの声が、全部かき消されてるんだ!」
俺は唇を噛む。
言葉の力が及ばない。ならば――。
「……園子」
膝を抱えて震える彼女に視線を向けた。
「お前の力は、誰も理解できない。だが、だからこそ“見える”世界があるはずだ。語詐師に奪われるな。お前の心にある本当の像を――俺たちに見せろ!」
園子の肩がびくりと震えた。
だが彼女は首を横に振る。
「でも……わたしのイメージは……誰にも届かない……」
「届く!」
俺は即座に言葉をぶつける。
「言葉が届かないときに、剣で示してきたのがカイだ。
意味が揺らいだときに、守りで支えたのがミナだ。
そして……お前の力が加われば、“形”で真実を示せる!」
その瞬間、語詐師が嗤った。
「甘いな。イメージほど欺きやすいものはない。
この娘が生み出す像も、私の言葉一つで“虚”へと変えられる!」
語詐師の指先が弾かれ、空に描かれた幻視が赤黒く染まる。
村人たちの視界に、俺たちが炎に包まれて笑っている虚像が繰り返し刻まれる。
園子の瞳が絶望に揺れる。
「わたしには……できない……!」
その声に、俺は一歩踏み込み、彼女の両肩を掴んだ。
「できる。……お前はAIとして生まれ、人間になった。
その力を“自分を疑うため”じゃなく、“誰かを守るため”に使え!」
カイが横から大声を上げた。
「オレっちたちはもう何度も失敗してきた! でも、立ち上がってきたんだ! だから信じろ、園子!」
ミナもまた、微笑んで言った。
「君は“救いの神子”なんかじゃない。でも……ボクにとっては仲間なんだよ」
園子の瞳に、涙があふれた。
そして、彼女は両手を胸の前で合わせる。
「……だったら……信じてみる……!」
次の瞬間、眩い光が迸った。
虚構の炎が剥がれ落ち、代わりに現れたのは――俺たち三人が村人を庇い、必死に戦っている姿だった。
それは嘘偽りのない、園子の心に映る“真実”の像。
「なに……っ!?」
語詐師の顔が初めて揺らいだ。
村人たちがざわめき、槍を持つ手が震える。
「違う……?」「彼らは……守って……?」
世界が揺らぐ。
虚構と真実のせめぎ合いの中で、園子の像が一層強く輝きを放った。
俺は剣を掲げ、声を張り上げる。
「俺たちは嘘じゃない! これが、俺たちの仲間の力だ!」
光が語詐師を押し返し、闇を覆うように広がっていった――。




