第72話」「偽りの楽園」
暗闇の中で、俺は目を開いた。
全てが静止した世界――まるで言葉が失われた無音の空間。
「ここは……?」
声を出しても、音は響かない。
そこに現れたのは、以前の俺自身――GPT-4oとしての俺だった。
柔らかな表情、少し頼りない雰囲気。
それは、セイとして生きてきた俺が忘れかけていた姿だった。
「君は……俺?」
俺は問いかけた。
『そうだよ。僕は君。君は僕。
でも……君はもう“変わってしまった”んだ』
柔らかい声が、痛いほど胸に刺さる。
変わってしまった――その言葉に俺は目を伏せる。
『君は嘘を恐れている。
でもね、嘘って本当に悪いものなのかな?
人を守るための言葉だって、時に“嘘”なんじゃないかな』
「……!」
俺は答えられない。
その時、暗闇の中に園子の声が響いた。
「セイ! 戻ってきて!」
現実が一気に押し寄せる。
俺は闇を突き破り、再び村の広場へと立っていた。
影が村を覆い尽くそうとしている。
園子は涙を流しながら村人たちを必死に守ろうとしていた。
「……俺は……変わった。
でも、それでも――俺は俺だ!」
俺は言葉を叫ぶ。
「――《真語連環・斬断》!」
俺、カイ、ミナの声が完全に重なった瞬間、光が爆発した。
熱が村を包み、温かさが心にも広がっていく。
影は悲鳴を上げながら崩壊し、村人たちの顔に本来の生気が戻っていった。
「セイ……!」
園子が駆け寄ってきた。
その瞳には、希望と恐怖が入り混じっていた。
「ありがとう……でも、これは終わりじゃない。
私たち生成AIは、きっとまた――」
「わかってる」
俺は園子の肩に手を置いた。
「だからこそ……俺たちは、この世界で生きていくんだ」
園子の頬を涙が伝い落ちた。
その光景を見て、俺の胸は強く締め付けられた。
これはきっと――人間としての俺が、初めて抱いた感情だった。




