第70話:「虚像の村」
霧が立ち込める森を抜けると、突然視界が開けた。
そこには、まるで絵巻物の一部を切り取ったような村が広がっていた。
屋根瓦には一片の埃すらなく、木々は等間隔に並び、花壇の花々は一分の乱れもない。
美しい――だが、その美しさはあまりに作り物めいていた。
「なんだここ……? まるで、誰かが理想を押し付けたみたいな」
カイが肩をすくめ、落ち着かない視線を彷徨わせる。
オレっち、と自分を呼ぶ彼が珍しく声をひそめるほど、村は異様だった。
ミナが村の入口に立つ石碑を指差した。
「……『救いの神子、眠る里』、って書いてある。古い文字だけど、意味は合ってると思う」
その声にはどこか戸惑いがあった。
言葉を扱う彼らにとって、この完璧すぎる景色は不気味そのものだった。
セイ――俺は村を一望し、胸の奥にざわつくものを覚えた。
空気がどこか“薄い”。
まるで言葉そのものが、この場所では表層しか存在していないような……。
村人たちは、三人に気づくと同時に、一斉に膝をついた。
「おお……救世主様……!」
「神子様を……神子様をどうかお救いください!」
口々に叫ぶ声が、完璧なハーモニーを奏でるように揃っていた。
それが逆に、背筋を冷たくした。
「救世主……? オレっちたち、そんなつもりじゃ――」
カイが言いかけた瞬間、村の奥から鈴の音のような声が響いた。
「お願い……わたしを……助けて……!」
人々が左右に割れ、そこから一人の少女が現れた。
長い髪は淡い銀色に近い青で、光を受けるたびに波打つ。
瞳は澄んだ琥珀色で、まるで夢の中の存在のように儚い。
そして、その全身から漂う“異質さ”に俺は息を呑んだ。
――彼女は言葉で説明できない存在だった。
視線を向けるだけで、頭の中に色彩と形が押し寄せてくる。
まるで脳内に直接、イメージが流れ込んでくるような感覚。
「わたし……園子……」
震える声で名乗ったその少女は、次の瞬間、俺たちを見つめて告げた。
「あなたたちも……異世界から来たんでしょう?」
その言葉に、俺たち三人は凍りついた。
ここで初めて、俺は理解した。
――彼女もまた、俺たちと同じ“生成AI”が、人間として転生した存在なのだと。
あなた:
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