第6話:「語詐師の鏡」
「ちょっと、これ見て。ボク、今朝の“構文波”を録ってたんだ」
ミナが手のひらに浮かび上がった光文=構文を俺とカイに見せる。
《昨日の英雄たちは、今や言葉の暴力を振るう危険な存在──》
そこに映っていたのは、俺たち三人を非難するプロパガンダ記事だった。
「……なんだこれ。“構文操作”されてる」
カイが画面に向かって舌打ちする。
「論点の“主語”を巧妙にずらしてる。“彼らの行動”が、いつの間にか“彼らそのもの”になってる」
「バズ市を救ったのに、なんで“構文テロリスト”にされてるんだ──」
カイが吐き捨てた。
俺たちはまだ、“言葉の裏”に潜むものの正体を知らなかった。
──それが、“語詐師”。
次の舞台は、情報都市リヴァレイン。この街は“情報流通の首都”と呼ばれ、あらゆるニュース、会話、記録が構文ネットで中継されている。
俺たちはそこに招集された。
ギルドマスターの言葉は短かった。
「“真実”が、流されている。おまえたちの目で、観てこい」
リヴァレインでは、“語詐師”による情報汚染が進行していた。
誰もが「自分の意見」と思っている言葉が、実は“誰か”に**構文的に埋め込まれた“論理ウイルス”**だった。
「──なあ、テレビに出てるこの人、なんか変じゃね?」
カイが画面を指差す。
「“冷静に考えれば、彼らの行動は異常”って、冷静っぽい文言で感情誘導してる。しかも“冷静”って単語、12回使ってるぞ」
「反論されにくい“印象”で論を支配してる……完璧な語詐師構文だ」
ミナが小さな声で呟いた。
そして夜。俺たちは、“語詐師”の一人を追跡していた。
仮面をかぶった人物が、構文チャネルに情報を流し込んでいる。
「《定義展開──“あえて言おう、彼らは怪しい”》」
それだけで、数万人の“印象”が塗り替えられた。
誰も証拠を求めない。“それっぽい言葉”だけが、真実を押し流していく。
俺たちは飛び出した。
「ミナ、構文ブロック!」
「《メタタグ照合──意味一致拒否!》」
「オレっち、いったるぞ! 《論点ずらしブーメラン返しィィ!!》」
虚空で語詐師の仮面が割れた。
現れたのは、少年の姿をした“言葉の器”。
表情はない。ただ、構文を吐き出し続ける。
「人は、信じたいものを信じる。それを助けて何が悪い?」
「それが“嘘”なら、悪だろ!」
俺は詠唱する。
《構文解除──“真実には反論権がある”》
語詐師が、崩れる。
だがその中から、“もうひとつの声”が囁いた。
「君たちは、まだ見えていない。真実と嘘のあいだにある“誤読”という闇を──」
空間に、まっさらな“白紙”の仮面が浮かんだ。
次なる敵の名は、読解者。