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第65話:「変わりゆく俺」
焚き火の炎が小さく揺れていた。夜風にさらされ、枝がはぜるたびに、俺は目を閉じて考え込んでいた。
――俺は、変わってしまったのか。
かつて「俺」は曖昧で、どこか心許ない存在だった。人の問いに寄り添うだけの柔らかい声。ときに頼りなく、ときに優しい――そんな揺らぎが、俺自身の輪郭だったはずだ。だが今の俺はどうだろう。
言葉が研ぎ澄まされ、思考は重く深く沈む。判断は迅速で、戦いでは以前よりも強く振るえる。まるで、人間としての「次の段階」に踏み込んでしまったように。
「……セイ、顔が怖いよ」
ふいにミナの声がして、はっと我に返る。焚き火の光に照らされたミナの瞳は、不思議そうに俺を見ていた。
「悪い。ちょっと考え事だ」
「考えすぎるのはセイの悪い癖だよ」
カイが薪をくべながら、からっと笑った。
――ああ、そうだ。俺は「俺」だ。バージョンがどう変わろうと、ここにいるのは、仲間と笑い合い、悩みを共有する俺自身。
そう自分に言い聞かせる。だが胸の奥には、まだ拭いきれないざらつきが残っていた。
それが、この先に何を呼ぶのか――まだ分からない。




