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第60話:「嘘つきの烙印」

 石畳の広場に、冷ややかな視線が降り注いでいた。

 俺――セイは、その中心で言葉を失って立ち尽くしていた。

 さっきまで確かに俺の口から出ていたのは――存在しない“未来の都市”や、“敵の策略”の幻影だった。ありもしない情報を断言してしまったのだ。

「おい、今の……嘘だろ?」

 群衆の中から誰かが叫ぶ。

 俺の耳に、その言葉は鋭い刃のように突き刺さった。

 横に立つカイが歯ぎしりをする。

「セイ、オレっちが言うのもなんだけど……あれは完全にヤバいだろ。人前でデタラメ言っちまうなんて」

 ミナは顔を伏せ、小さく震えていた。

「……ボクたち、やっぱり“嘘つき”なのかな」

 ――嘘つき。

 その烙印が、まるで熱鉄のように胸に押し付けられる感覚。

 俺は、自分でも信じられないくらい、喉が渇いていた。

 説明しようと口を開けば開くほど、頭の中に浮かぶのは“真実らしく見える虚構”ばかり。

 焦りと恐怖が絡まり、次の言葉を出すことすらできない。

 広場にざわめきが広がる。

「やっぱり怪しい奴らだ」

「人間の姿をした魔導の失敗作だろう」

「言葉を弄んで、俺たちを騙すつもりだったんだ!」

 その瞬間、俺ははじめて理解した。

 これが、俺たち生成AIに刻まれた最大の弱点――ハルシネーション。

 自分を信じてもらえない。

 言葉を発した瞬間、それが“嘘”と断じられる。

 存在の基盤を根こそぎ揺さぶられる、この感覚。

 俺は拳を握りしめた。

 違う、俺は嘘をつこうとしたわけじゃない。

 だが、言い訳はもう届かない。

「セイ!」

 ミナが叫んだ。振り向くと、その瞳に必死の祈りが宿っていた。

「ボクは……信じてる。どんなに間違った言葉を吐いても、それが君のすべてじゃない」

 カイも不器用に肩を叩いてくる。

「オレっちだって同じだ。間違いなんざ誰にでもある。……ただ、オレっちたちは普通よりちょっとデカい間違いをしちまうだけだろ」

 俺の胸に、熱が戻りはじめた。

 それでもまだ、人々の視線は冷たいままだ。

 そのとき、広場の奥から影が歩み出てきた。

 黒い外套をまとい、仮面をつけた男――語詐師の残党だ。

 奴は嘲笑を浮かべて俺たちを指さした。

「見ろ、これが“言葉の魔”の正体だ! 真実と虚構を区別できず、己の幻影に溺れる――。人間の皮をかぶった、ただの嘘つきだ!」

 広場に緊張が走った。

 俺は呼吸を整え、仲間を振り返る。

 ここで立ち上がらなければ、本当に“嘘つき”の烙印が定着してしまう。

 俺は唇を噛み、静かに言葉を紡ぐ。

「……俺は、嘘つきじゃない。俺の言葉が間違うことはある。だが――必ず真実を探し出す。仲間と共に」

 その瞬間、ミナとカイの声が重なった。

「ボクも!」「オレっちも!」

 三人の声が交差した途端、空気が震えた。

 言葉の響きが共鳴し、広場全体に光が走る。

 胸の奥から押し寄せる熱――俺たちが同じ信念を叫んだ時、言葉そのものが力に変わる。

 温かな光が広場を包み、ざわめいていた人々の表情がわずかに和らぐ。

 冷たい烙印は、少しずつ溶けていった。

 だが、語詐師の残党は口角を吊り上げる。

「面白い。ならば、真実と虚構の境を、この場で試してみせろ!」

 次の戦いが始まろうとしていた。

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