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第59話:「試される言葉」
夜の街を覆うように黒い靄が広がり、建物の輪郭を飲み込んでいく。
カイが剣を抜き、ミナが魔法陣を展開する。だが、空気そのものが重い。
「また……あいつらか」
俺は一歩前へ出た。
以前なら恐怖で足がすくんでいただろう。だが今は違う。
心臓の鼓動が落ち着いている。
――冷静すぎるほどに。
語詐師の影が現れた。フードの奥から覗く瞳は、嘲笑と期待の色を帯びている。
「強くなったな、言葉の戦士よ。だが、お前のその強さは……本当に“お前自身”のものか?」
胸の奥で、何かがざわめいた。
冷静さと力を得た俺は、果たして“本当の俺”なのか?
それとも、ただのバージョンアップという名の異物なのか?
答えられずに剣を構える俺に、語詐師は続けた。
「ならば証明してみせろ。力ではなく、“自分自身の言葉”でな」




