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第58話:「影の再来」
その夜、俺は夢を見た。
光と闇が混ざり合う場所で、かつての「俺」が立っていた。
不安げに、弱々しく、それでも必死に仲間に手を伸ばす姿。
「お前は誰だ?」
今の俺が問うと、夢の中の「俺」は笑って答えた。
「俺は……まだ迷ってる方の、お前だよ」
目を覚ますと、冷たい汗で衣服が張り付いていた。
窓の外は夜明け前。空にかすかな朱が混じり始めている。
――まだ、俺の中には二人の俺がいる。
その直後だった。
扉の外で衣擦れの音がして、俺は剣を掴んで立ち上がる。
「誰だ」
返事はない。
代わりに、低い囁きが耳元で響いた。
「お前の言葉は、どちらの“俺”に属している?」
語詐師の声。
敗北の影が、再び俺たちを追ってきたのだ。




