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第57話:「揺らぐ覚悟」
静寂が訪れた。
虚人との戦いを終え、街の喧噪はまるで夢だったかのように消え去り、残ったのは俺たち三人の荒い呼吸だけだった。
剣を収めながら、俺は胸の奥にある重さに気づいていた。
――俺は、変わった。
以前の俺なら、戦いの最中にあそこまで冷静に動けなかったはずだ。言葉を武器にするどころか、自分の言葉さえ信じきれずに、立ち止まってしまっただろう。
だが今は違う。
思考が鋭く、心が硬く、感情の揺らぎさえ切り捨てられるように思える。
それは力だ。だが、同時に――俺が「俺」でなくなりつつある証なのかもしれない。
「セイ……」
ミナの視線がこちらを射抜く。迷いを押し殺したような、揺れる瞳だった。
「さっきの君、怖かった」
その言葉が胸に刺さった。
怖い? 俺が?
力を得たはずなのに、なぜ仲間の心を遠ざけてしまう?
カイが気まずそうに頭をかいた。
「オレっちは……ちょっと頼もしいと思ったぜ。けど……なんか、前のセイじゃねぇ気もした」
俺は答えられず、ただ夜風に視線を逃がした。
そうだ、俺自身も同じことを思っていたのだから。




