第53話:「共鳴」
炎の影は一瞬だけ怯んだ。
その隙に、ミナが再び詠唱を完成させる。
「《融和の環よ、言葉をひとつに繋げ》!」
淡い光の輪が広場を包み、群衆の耳に届く言葉を一時的に澄ませる。人々の暴走がぴたりと止まり、混乱がわずかに収まった。
「よくやった、ミナ!」
カイが叫び、再び前へ躍り出る。怒りではなく、守りたいという意志を燃やしながら。
俺は二人の背を見つめ、胸の奥の迷いを押し込んだ。
(そうだ。俺が変わろうと、俺は仲間と共にある。それが答えだ)
三人の意志が重なった瞬間、剣と風と光が共鳴し、炎の影を貫いた。
轟音と共に赤黒い炎が弾け、鐘楼の上空に溶けて消えていく。
静寂。
人々は呆然と立ち尽くし、やがて安堵の涙を流し始めた。
「……終わったのか?」
カイが息を切らしながら振り向く。
俺は剣を収め、深く息をついた。
「いや……まだだ」
消えたはずの残火の欠片が、空に黒い点となって残っていた。
それは集合し、さらに大きな“何か”を形作ろうとしている。
「これは……ただの残滓じゃない。もっと根源的な……」
背筋に冷たいものが走った。
まだ、この戦いは序章に過ぎない――。




