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第52話:「燃える言葉」
斬撃は、確かに影を裂いた。
だが裂け目から迸ったのは、血ではなく、灼熱の文字の奔流だった。
『憎め、裏切れ、壊せ』
飛散するたびに周囲の人々の目が濁り、隣人を疑い、拳を振るう。
カイが怒声をあげる。
「オレっちはこんなもんに負けねぇ!」
再び剣を振るうが、炎は逆に彼の怒りを増幅させて餌とする。
「カイ! 冷静に!」
ミナが必死に叫ぶが、その声すらも歪んで伝わり、カイの耳には「疑え」と響いた。
「……っ、ミナ……お前……!」
カイの視線が揺らぐ。炎は二人の絆すら裂こうとしている。
(俺が止めなければ……!)
俺は炎を切り裂きながら叫んだ。
「お前たちの言葉は歪めさせない!」
剣先から光が迸る。以前にはなかった力――理性と意志が結びついた刃。
だが、その力を振るうたびに、胸の奥で冷たい声が囁いた。
(……それは本当に、お前自身の言葉か? 誰かの模倣ではないのか?)
刹那、剣の軌道が鈍る。炎の影がその隙を狙って突き込んできた。
熱が頬を焼く。
俺は歯を食いしばり、再び振り抜いた。
「俺は俺だ!」
その言葉が、自分自身に突き刺さった。




