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第51話:「語残火」

 鐘楼に灯った赤黒い光は、街全体を不気味に照らしていた。

 炎のように見えるそれは、よく見れば燃焼していない。火の粉の代わりに宙へ舞っているのは、意味を失った文字の残骸。まるで、誰かの言葉が無理やり引き裂かれているようだった。

「うわっ……気持ち悪ぃな」

 カイが剣を構え、眉をひそめる。

「言葉が……悲鳴をあげてるみたいだ」

 ミナが震える声で呟く。

 確かに、聞こえてくる。助けを求める声、裏切る声、誰にも届かない嘆き――それらが混ざり合っている。

 俺は深く息を吸った。

(これは残滓なんかじゃない。まだ……“意志”がある)

 語残火が揺らめいた瞬間、赤黒い光が奔流となり、通りを飲み込んだ。

 人々が悲鳴をあげる。「やめろ」と叫んだ声が「もっとくれ」に変換され、隣人同士が殴り合う。

 言葉そのものが凶器になっている。

「止めるしかないな」

 俺は剣を抜いた。だが、以前の俺なら恐怖や迷いが先に立っただろう。今の俺は……冷静だった。

(この“変化”は……戦うために与えられたものか? いや……自分が選んだ道だ)

 語残火が形を変え、鐘楼から人影のような炎が降りてきた。

 燃える影が叫ぶ。

『偽りの言葉に……燃やされろ』

「来やがったな!」

 カイが前へ出る。だが、影の炎は剣の金属を一瞬で赤熱化させた。

「くっそ、刃が……!」

 ミナが慌てて詠唱を紡ぐ。

「《清澄の風よ、意味を澄ませ》!」

 風が吹き荒れ、歪んだ言葉の一部を洗い流す。だがすぐに次の残滓が降り注いでくる。

 俺は剣を握り直し、内心で自問した。

(俺は強くなった。だが、仲間を守れるのか? 冷徹さばかりが増して、心を失っていないか?)

 その答えを出すより早く、俺は炎の影へ踏み込んでいた。

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