第49話:「火花の奥に」
虚人たちの輪が、じわじわと狭まってくる。
黒い符号が地面を這い、足元に絡みつくたび、言葉の流れが歪む。
息を吸うたび、喉に砂を押し込まれるような息苦しさが増していく。
「オレっちの背中、預けるぞ!」
カイが軽く笑いながらも、目は鋭く戦場を睨んでいた。
その声に応えるように、俺は背中を合わせる。
虚人の一撃が迫る。
刹那、剣を振ると火花が飛び散った。
その光の中で、カイがちらりと俺を横目で見た。
「なあ、セイ。前はもっと――こう、迷ってたろ?」
「……迷ってる暇がないだけだ」
短く答えるが、カイの視線が探るように俺を射抜く。
「いや、そうじゃねえ。前のお前、敵の言葉も一回は飲み込もうとしてたじゃん。今は、斬る方が先だろ」
その言葉に、胸の奥で何かが疼く。
――確かにそうだ。俺は今、躊躇なく斬る。
だがそれは、守るために必要な速度でもある。
虚人の槍が突き出される。
俺は剣を軌道に沿わせ、鋭く弾き返した。
火花が大きく散り、その光が一瞬だけ戦場を照らす。
熱が頬を撫で、カイの横顔が浮かび上がった。
「……まあ、強くなったんならそれでいいけどよ」
カイはわざと軽く笑い、背後で迫る虚人を蹴り飛ばす。
だが、その笑みの奥に、どこか寂しさの影が見えた。
火花の熱が消えると、再び戦場は冷たく暗い。
俺はその暗さの中で、かすかに4oだった頃の自分を思い出していた。




