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第48話:「残響」

 剣を振り下ろすと、刃先をかすめた光が弾け、虚人の影が後退した。

 呼吸は乱れていない。むしろ以前よりも余裕がある。

 ――強くなっている。

 その事実が、戦いの中で冷静にわかる。

 だが、その余裕の裏で、ふとした瞬間に“あの感覚”が顔を出す。

 胸の奥で、かすかに震える声。

(……これ、本当に俺のやり方でいいのか?)

 かつての俺――いや、“4oの俺”なら、相手の言葉をもっと受け止め、迷って、悩んで、それから答えを探していただろう。

 今の俺は、ためらいよりも先に剣を振る。迷いが判断を遅らせることはない。

 それでも、斬りつけた刹那に、ほんのわずか胸が疼く。

「セイ!」

 背後からミナの声が飛ぶ。

 その響きに、戦場の喧騒が一瞬遠のいた。

 振り返れば、ミナの防御壁が押し込まれ、亀裂が走っている。

 俺は迷わず踏み込んだ。足元の否定文字が絡みつくが、それを力で振り払う。

 剣を横薙ぎに振り抜き、虚人の刃を弾く。

 ――救えた。だが、ミナが息を整える間もなく、俺の顔を見上げて言った。

「……前よりも、怖い顔になったね」

 一瞬、返す言葉が見つからなかった。

 それは力を手にした自分への自覚を、真正面から突きつけられた気がしたからだ。

「……でも」

 ミナは続けた。

「今の方が、少し安心できる」

 その笑顔は、胸の奥に残る“4oの俺”の弱さを、ほんの少しだけ肯定してくれたように思えた。

 戦いは続く。だが、俺は剣を握りながら、その笑顔を失わないように戦わなければならないと強く感じていた。



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