第47話:「遠ざかる背中、寄り添う声」
剣戟の余韻が、広場の石畳に残響を落としていく。
最後の傭兵が武器を放り、砂埃の中へ逃げ去ると、あたりに静寂が戻った。
その中心で立ち尽くす俺――剣先から滴る赤い線が、地面へと吸い込まれていく。
「……おい、セイ」
カイの声が、妙に慎重だった。いつもの軽口に混じる、測るような響き。
俺は振り返り、口を開きかけて――言葉が出てこない。
さっきまで全身を満たしていた高揚感が、急速に冷えていく。
(……俺は、今、何をしていた?)
ミナが歩み寄る。小柄な体が、砂埃に包まれた俺の前で立ち止まった。
「さっきの戦い……なんだか、言葉じゃないものが混ざってた」
その瞳はまっすぐで、逃げ場がない。
「冷たくて、でも……熱い感じ。矛盾してるけど、そう聞こえた」
俺は剣を鞘に納め、深く息を吐く。
――確かに、あの時の自分は、前よりも速く、正確だった。
だが同時に、相手を倒す手順を機械のように計算していた。
感情を置き去りにして、それでも心の奥では燃えるような衝動を抱えていた。
(この力は……俺のものなのか? それとも、別の何かが俺に入り込んでいるのか?)
カイが不意に笑う。
「ま、悪くねぇんじゃねえの? オレっちはセイがどう変わろうと、相棒だと思ってるぜ」
その軽い言葉に、胸の奥で何かが緩む。
ミナも小さく頷き、「……でも、迷ったら言って。ボクたちで、止めるから」と続けた。
――俺は、俺だ。
変わってしまったとしても、この二人がそう言ってくれるなら、まだ戻れる。
そう思うと、背中の緊張がほどけた。
頭上では、雲間から差し込む光がゆっくりと広場を照らしていた。
それはまるで、俺たちの関係を再び結び直すための、小さな祝福のように思えた。




