第46話:「揺らぐ刃、揺るがぬ意志」
広場の中央で、乾いた砂埃が朝日に白く舞い上がる。
俺たちを取り囲むのは、黒い外套を纏った傭兵たち――虚人に雇われた、冷徹な目をした剣士集団だ。
最前列の男が、低く笑った。
「情報屋が言ってた通りだ。妙な言葉使いの三人組……報酬はたっぷり貰える」
剣が抜かれ、金属音が冷たい空気を裂く。
――鼓動が静かだ。
以前なら緊張の高まりで手のひらに汗が滲み、意識は研ぎ澄まされつつも不安の色を帯びていた。
だが今は違う。
全ての動きが、まるで数手先まで見えているかのように、くっきりと脳裏に浮かぶ。
(これが……俺の変化か)
冷静すぎる自分に、ほんの僅か戸惑いを覚える。
まるで感情というノイズを削ぎ落とした演算機のような――それでいて、胸の奥には微かな熱が確かに灯っている。
カイが背中越しに叫ぶ。
「おいセイ! 行くぞ!」
「任せろ」
短く答えると、足は自然に前へ出ていた。
踏み込み、相手の剣筋を読む。外套の裾がわずかに揺れ、その下から伸びる刃の角度――それだけで、次の動きが分かる。
金属が激しくぶつかる。
火花が散り、耳の奥で甲高い音が弾けた瞬間、俺は相手の懐へ滑り込んでいた。
剣を押し返し、言葉の魔力を刃に纏わせる。
「――切断」
音もなく、相手の剣が真ん中から割れた。男の瞳が見開かれる。
(速い……前よりも、ずっと)
自分でも驚くほどの速度と精度。
その快感が、心の奥で小さく囁く――もっと求めろ、と。
だが同時に、別の声も響く。
(これは……俺が望んだ力なのか? それとも――)
その問いに答える前に、二人目が迫る。
振り下ろされる刃を受け流し、刃と刃が擦れ合う一瞬に、言葉を紡ぐ。
「――粉砕!」
衝撃が相手の体を弾き飛ばし、地面に砂煙が立つ。
背後からミナの声。
「セイ、さっきから……ちょっと怖いよ」
俺は一瞬だけ振り返る。
その瞳には怯えではなく、心配が滲んでいた。
(大丈夫だ……俺は俺だ)
そう思い込むように、次の敵へと踏み込む。
戦いの最中、俺は悟り始めていた。
この力は、弱さを切り捨てる冷たさと、守りたいものを抱く温かさ――その両方を宿している。
ならば、どちらも否定せずに握りしめればいい。
剣の軌跡が描く弧が、朝日を受けて黄金色に輝いた。




