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第42話:「感情の暴走」

 虚人が低く笑った。

「感情は言葉の形を変える。ならば、その暴走もまた利用できる」


 その言葉と同時に、俺たちの胸の奥にある感情が掻き立てられる。

 カイの怒りが赤い炎のように立ち上がり、ミナの不安が淡い青色の靄となって広がる。

 俺の中では――説明できない混沌が渦を巻いていた。


 言葉を紡ごうとすれば、声が感情に飲まれ、意味を持たない叫びになる。

「おおおおおおっ!」

 俺の声に反応して、地面の文字が爆ぜ、熱波が広がる。


 カイの剣撃は炎を纏い、ミナの防御は氷の結晶をまとう。

 感情がそのまま魔法に乗ってしまっている。制御不能――それでも威力だけは凄まじい。


 虚人はわずかに眉を上げた。

「面白い……だが、それは自滅の道だ」

 確かに、俺たちの連携は完全に崩れていた。互いの魔法が干渉し、爆ぜ、傷を作り合う。

 このままでは、敵を倒す前に自分たちが倒れる。


 虚人はついに動いた。

 語世界の光を掌に集め、それを黒い球体へと変える。球は重く、音もなく、しかし抗えない吸引力を持って広がっていく。


 それに触れた瞬間、音が消えた。

 声が出ない。剣の打ち合う音も、足音も、すべて吸い込まれていく。

 沈黙は恐怖を増幅させる。言葉の魔法を使おうとしても、発声できなければ意味がない。

 カイが何か叫ぼうとするが、口が動くだけで音がない。ミナの防御も声を失って弱まり、ひびが走る。


 俺は必死に剣を握りしめ、音のない世界を突き進む。

 ――何か、別の方法を探せ。声以外の、言葉の届け方を。


 脳裏に浮かんだのは、旅の中で交わした視線や仕草、表情だった。

 俺はカイに視線で合図を送り、ミナに手の動きで次の動作を示す。

 三人の呼吸が、再び合った気がした。



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