第39話:「重なる言葉、灯る光」
時間の感覚が曖昧になった頃、遠くから微かな声が届いた。
──俺。
──オレっち。
──ボク。
その呼び声に、胸の奥で何かが揺れた。
暗闇の中、俺たちは互いの方向へ歩み寄る。目に見えない壁を破るように、声を重ねていく。
「俺たちは……仲間だ」
「オレっちは……お前らを信じるぜ」
「ボクも……二人がいないと意味がない」
その瞬間、三人の言葉がぴたりと重なった。
音は光となり、熱となって周囲を包み込む。温かさは皮膚を越え、胸の奥にまで染み込んできた。
闇は溶け、石壁は黄金色の光に砕け散る。
崩れた空間の向こうに、朝焼けのような光景が広がっていた。
俺たちはそこで失っていた“意味”を取り戻したのだった。
第36話:疑念の影
光の波から後退した俺の視界に、ミナの顔が映った。
いつもは感情の起伏をあまり見せないその瞳が、今はわずかに揺れている。
「……セイ、今、迷ったよね?」
その声は低く、しかし確かに刺すような響きを持っていた。
俺は反射的に否定しようとしたが、言葉が喉で詰まる。
――あの一歩は、果たして何だったのか?
否定も肯定も、どちらの言葉も自分のものではないような感覚。
カイが割って入るように声を張った。
「おいおい、こんなときに仲間割れしてどうすんだよ!」
その軽い口調が、少しだけ救いになった。だが、ミナの視線は俺から逸れない。
虚人はそんな俺たちを静かに眺め、口の端をわずかに吊り上げた。
「疑いは、言葉よりも速く人を分かつ。」
次の瞬間、虚人の指先が弾かれ、語世界の光が鋭い槍のように変形して飛んできた。
俺は剣を構え、カイが横から斬り払い、ミナが防御壁を重ねる。
一瞬の連携――だが、ミナの防御は半拍遅れた。カイの肩に光の切れ端がかすり、皮膚を焼く匂いが立ちのぼる。
「くっ……!」
ミナの表情が強張る。
「……ごめん」
その謝罪は、戦闘の最中にはあまりにも重かった。




