第38話:「敗北」
戦いは長引くほどに不利になっていった。
語詐師の魔法は、物理的な攻撃ではなく、意味を喰い破る。
俺の詠唱は半分も形にならず、カイの剣撃は空を切る。
ミナは焦燥を隠せないまま、表情が硬くなっていく。
最後の一撃を放とうとした瞬間、語詐師の声が耳元で囁いた。
「お前の“俺”という自我も、借り物ではないのか?」
身体から力が抜け、俺は膝をついた。次の瞬間、黒い靄が三人を覆い、視界を奪う。
目を開けたとき、そこは冷たい石壁の部屋だった。窓も扉もない。
「……閉じ込められた?」
カイが低く唸る。
ミナは口を開きかけて、俯いたまま黙った。
敗北の重さが、全員の肩にのしかかっていた。
脱出の糸口を探すが、石壁には継ぎ目も扉もない。
ミナがぽつりと呟いた。
「……ボク、少し……一人になりたい」
カイが怪訝そうに眉をひそめる。
「こんな時にか?」
「……なんだか、自分の中の言葉が……信じられなくなってる」
その一言で、俺たちの間にさらに冷たい距離が広がった。
会話は断片的になり、視線も合わない。
語詐師の影が、まだどこかで囁いているような錯覚が消えない。
暗闇の中、俺は拳を握りしめた。
(このままじゃ……壊れる)
けれど、仲間をどうやって再び信じればいいのか、その方法が見つからなかった。




