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第34話:「失われた連携」

 戦況は悪化の一途をたどった。否定の陣はじわじわと俺たちの言語魔法を削ぎ、息を合わせる余裕を奪っていく。

 カイは苛立ちを隠せず、剣の柄を握る手に力を込めた。

「もう我慢できねぇ、オレっちが斬る!」

 その声は勢いこそあるが、俺とミナを無視して飛び出していく。


 カイの動きは速い。地を蹴った瞬間、外套が翻り、刃が光を反射した。

 だが、虚人は視線すら動かさず、黒い波を足元から立ち上らせる。波は生き物のように形を変え、カイの足首を絡め取った。

「なっ――!」

 カイの踏み込みが鈍った一瞬、虚人の指先が軽く動き、否定の衝撃が正面からぶつかる。カイは後方に弾かれ、石畳を転がった。


 ミナが慌てて防御の壁を展開する。しかしその形はいつものように滑らかではない。

「ミナ、位置がずれてる!」

「……っ、わかってる!」

 声が荒い。動きもぎこちない。虚人の言葉が、確実にミナの心を揺らしている。


「お前は本当に彼らを信じているのか?」

 虚人の声は囁きに近かったが、広場全体に響いた。

 その瞬間、ミナの瞳がわずかに揺れる。防御壁の縁がひび割れ、そこへ虚人の否定の刃が滑り込む。

「ぐっ……!」

 ミナがたたらを踏み、膝をついた。


 俺は前へ出ようとするが、足元の否定陣が足を重くする。踏み込むたび、思考の奥底で「お前たちの正しさは薄っぺらい」という声が響き、力を奪っていく。

 その声は虚人だけのものではない。観衆の中にいる者たち――誰かの心の奥にある本音が形をとり、俺たちを責め立てているのだ。


 カイが立ち上がり、歯を食いしばって叫ぶ。

「ミナ! オレっちはお前を――」

 だが、その言葉が言い終わる前に、虚人が再び否定の波を広げ、俺たち三人を完全に分断した。

 広場の中央、虚人は孤高のように立ち、目を細めていた。その姿は、まるで「勝利は既に決まっている」とでも言いたげだった。

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